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NTT、EBITDA目標を3年前倒しで2030年度へ モバイル収益の低迷が重荷に

NTT — 2026年3月期決算および中期経営戦略説明会(2026年5月8日)

NTTが発表した2026年3月期決算は、売上高で過去最高を更新した。しかし、その華やかな数字の裏側では、戦略の大きな後退が浮き彫りとなった。同社は、掲げていた「2027年度にEBITDA 4兆円」という目標を事実上断念し、達成時期を2030年度まで3年先送りすると発表した。これは、旧計画の根幹を成していた前提条件、特にNTTドコモのモバイル事業の収益性見通しが誤りであったことを認めた形だ。経営陣は今回の修正を「見直し」と表現するが、実態はグループ最重要の財務目標の3年延期である。

ドコモの苦境が招いた目標修正

島田明社長兼CEOは、計画が頓挫した要因について異例の率直さで語った。「モバイル事業の収益性が低下した。現行計画はかなり保守的に作成されていた」と述べ、かつて高収益事業だったドコモのコンシューマー向けEBITDAが、6,000億円規模から3,000億円規模へと急減した事実を認めた。マラソン・アセット・マネジメントの投資家との質疑の中で、島田氏は「ドコモのコンシューマー向けEBITDAは、6,000億円から3,000億円へと減少した。以前のような水準は期待できない。かつては高ROIC(投下資本利益率)事業だったが、急速に悪化したため、資金供給を余儀なくされた」と突き放すように語った。グループは、この収益不足を負債で補う一方で、投資回収期間の長いデータセンターへの資本投下を継続した。その結果、バランスシートは圧迫され、フリー・キャッシュ・フローは中期的に制約を受ける状態が続いている。

広井豊CFOは、現在の負債水準が構造的な懸念材料であることを認め、2030年度までに有利子負債対EBITDA倍率(金融事業を除く)を約3.5倍まで低下させる方針を示した。現在のEBITDAは3兆4,200億円だが、2026年度は金利負担の増加により減益を見込んでおり、デレバレッジ(負債圧縮)には複数事業を横断した着実な実行が不可欠となる。

2030年度目標は「保守的」と経営陣

2030年度のEBITDA 4兆円という新たな目標は、今期の見通しである3兆4,200億円から累積で約16〜17%の成長に留まる。年率換算では約4%という控えめな数字だ。野村證券のアナリスト、増野大作氏から目標の低さを指摘されると、島田氏は「保守的に作成したのは事実だ。今期の計画を達成できない以上、2030年度には確実に達成したいと考えた。もし前倒しで達成できれば、それに越したことはない」と認めた。さらに、現在赤字のセグメントに約1,200億円のバッファを織り込んでいることを明かし、実行次第では上振れの余地があることを示唆した。なお、EBITDA 4兆円達成時の営業利益は2兆円を超える見通しだ。

売上高最高益も、利益軌道への懸念は拭えず

売上高は前期比7,044億円増の14兆4,091億円と過去最高を更新した。グループ各社のエンタープライズ事業の拡大やスマートライフ事業の成長、データセンターのREIT移管が寄与した。EBITDAは1,840億円増の3兆4,233億円、営業利益は567億円増の1兆7,062億円、純利益は370億円増の1兆370億円となった。2026年度は全セグメントで増収増益を見込むが、純利益については、島田・広井両氏が認めた負債積み増しによる金利負担増が直撃し、減益を予想している。

成長戦略の柱と残る不透明感

中期的な成長戦略は「エンタープライズICTサービス」「ドコモのスマートライフ金融事業」「NTTデータ海外事業」の3本柱だ。このうち金融事業について、SMBC日興証券のアナリスト、菊池悟氏は、目標とする1,200億円の利益増は「大きな飛躍」であり、現状のポートフォリオでは困難ではないかと疑問を呈した。広井氏は、ドコモが保有する決済サービス、住信SBIネット銀行、マネックスグループ、クレジット事業などを挙げ反論したが、詳細な内訳については別途説明の場を設けるとした。金融事業を成長エンジンと位置づけながら、その実行プロセスが不透明である点は懸念材料だ。

NTTデータの海外事業については、より厳しい視線が注がれた。モルガン・スタンレーの津坂哲郎氏は、同セグメントでは「ほぼ毎年」構造改革が行われているにもかかわらず、「正直なところ、業績がうまくいっているようには見えない」と指摘した。経営陣は、AIによる既存のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やシステムインテグレーションモデルの破壊的変化に直面していることを認め、中期計画にはM&Aによる非有機的成長が明確に織り込まれていると説明した。「オーガニックな成長だけで数字を達成するとは考えていない」と島田氏は述べた。このセグメントの基盤となるデータセンター容量は3ギガワットとし、2026年度には利益の早期認識を狙ったREITへのデータセンター移管を計画している。

設備投資は減少へ、AIデータセンターの過大な投資は否定

投資家にとって重要な新方針として、設備投資(CapEx)がピークアウトしたことが示された。広井氏は、今期から投資額は「徐々に減少していくイメージ」であり、「これ以上増やすつもりはない」と明言した。2030年までの累計設備投資額は約12兆円と、旧中期計画の8兆円から増加するが、NTTはハイパースケールなAI学習用インフラには投資しない方針を明確にした。「1ギガや2ギガといった巨大なAIデータセンターについては、投資を考えていない」と島田氏は述べた。代わりに、エッジでの分散型推論能力や、IOWN構想およびAIネイティブな「コネクティビティ・エリア」の構築に注力する。

アノードエナジーの減損は規律の表れ

アノードエナジーでは、GPI(グリーンパワーインベストメント)の建設コスト上昇に伴い、約500億円の減損を計上した。経営陣はこれを戦略的撤退ではなく、コストインフレに対する会計上の対応と説明し、グループの再生可能エネルギー確保は引き続き優先事項であることを強調した。今後は、データセンターと同様のREIT移管モデルを活用し、建設後のオフバランス化を進める方針だ。

価格転嫁の余地は残る

みずほ証券のアナリスト、藤代健之氏のコスト転嫁に関する質問に対し、島田氏は投資家の予想以上に踏み込んだ回答をした。モバイルについては、競合他社が値上げする中でもドコモは実施していないことを認め、その理由として既存料金プランの整理が先決である点を挙げた。「競合は既に値上げしている。タイミングについては、今ここで具体的に話すのは難しい」とし、値上げは「実施するかどうか」ではなく「いつ実施するか」の問題であることを示唆した。固定通信については、接続料の値上げが既に決定している。重要な点として、島田氏は中期計画の中に接続料以外の値上げの大部分は織り込んでいないと明言した。つまり、値上げの実行はガイダンスを達成するための必須条件ではなく、実現すれば上振れ要因となる。

株主還元とCFO交代

期末配当は1株当たり2.65円、2026年度の年間配当は0.1円増配の5.4円を予想し、2011年以来16期連続の増配となる。また、最大2,000億円の自己株式取得も決議した。2030年度に向けた純利益は、負債返済による金利負担減により、現在比で20〜30%の成長を目指す。CFO退任を発表した広井氏は、17年間にわたる財務への関与を振り返り、ドコモやNTTデータの完全子会社化を巡る投資家との対話が戦略形成に不可欠だったと語った。後任は現時点では発表されていない。

NTTに突きつけられた構造的な課題は、マラソン・アセットが指摘した通りだ。資本配分は3年前より読み解くのが難しくなり、負債の蓄積とモバイルの低迷によって株式価値創造のストーリーは希薄化している。新計画は、2027年に予定されていた目標を2030年まで待つよう投資家に求めている。この保守的な姿勢が正当化されるとしても、株式市場がそれほど長い忍耐を見せるかどうかは不透明だ。

NTTの深層:通信からテックの巨人へ

通信キャリアからテックの巨人への変貌

日本電信電話(NTT、証券コード:9432)は、日本のレガシーな通信独占企業から、ITサービス、データセンターインフラ、次世代コネクティビティを軸とするグローバルなテック企業へと劇的な転換を遂げつつある。同社の収益源は主に4つの柱で構成される。第1に、NTTドコモが主導する「コンシューマ通信事業」で、モバイル通信やスマートライフサービスを通じて日本の個人顧客から収益を上げている。第2に、国内法人向けにクラウドソリューションや固定ブロードバンド回線を提供する「統合ICT事業」。第3に、NTT東日本およびNTT西日本が広大な国内光ファイバー網を管理する「地域通信事業」である。そして、長期的な成長戦略において最も重要なのが「グローバルソリューション事業」だ。NTTデータとNTT Ltd.の統合により誕生したこの部門は、多国籍企業向けにグローバルなITコンサルティング、エンタープライズ向けソフトウェア統合、大規模なデータセンター賃貸サービスを展開している。2026年3月期(2026年度)の連結営業収益は、海外IT事業およびデータセンター事業の成長が牽引し、14.4兆円という過去最高を記録した。

市場での立ち位置と競争環境

NTTの競争環境は、国内通信事業とグローバルITサービス事業の2つに大別する必要がある。国内モバイル市場において、NTTドコモは依然として圧倒的な存在であり、メイン端末ユーザーの47.2%という強固なシェアを握る。競合であるKDDIとソフトバンクのシェアはそれぞれ約31%、約25%にとどまっており、市場は成熟し飽和状態にある。固定ブロードバンド分野では、NTT東西が光回線(FTTH)市場の約58%を占め、独占に近い支配力を維持している。一方、NTTデータが展開するグローバルITサービス市場は競争が激しい。NTT Ltd.を吸収したことで、同社は世界第8位、国内では最大のITサービスプロバイダーとなった。この領域では、高度なAIやハイブリッドクラウドのコンサルティングで差別化を図るアクセンチュアやIBMコンサルティングといったグローバル大手や、豊富な人材とコスト効率の高いデリバリーモデルを武器とするタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)やインフォシスといったインドの巨大企業と競合している。

経済的な堀と競争優位性

NTTは、広範な「経済的な堀」を形成する構造的な優位性を有している。国内においては、物理的なインフラの規模が参入障壁として機能している。NTT東西が管理する地下および地上の光ファイバー網を複製することは実質的に不可能であり、バックホール回線を借り受ける競合他社からの卸売収益が安定的に確保されている。グローバル市場では、NTTデータとNTT Ltd.の統合により、高度なDXコンサルティングからソリューションをホストするデータセンターの物理的スペースまでを一括提供できる、数少ないエンドツーエンドのITサービスプロバイダーとなった。2023年から2027年にかけて1.5兆円超を投じるデータセンターへの大規模な設備投資は、グローバル企業との長期賃貸契約を確実にしている。このインフラ基盤は、ソブリンクラウドやローカルAIコンピューティング能力に対する企業の需要が世界的なデータセンター供給を上回る中、強力な優位性となっている。こうした各事業の強固な市場ポジションは、直近の連結EBITDAが3.4兆円に達したことにも表れている。

IOWN革命と新たな技術フロンティア

NTTの長期的な成長戦略において最も注目すべき柱が、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想である。生成AIの普及によりデータセンターの電力消費が持続不可能なレベルに達する中、電力網の制約が世界のテクノロジー産業にとって構造的なボトルネックとなっている。IOWNは、電子から光へという抜本的なアーキテクチャの転換を提唱しており、コンピューティングやネットワーク伝送に電気信号ではなく光を利用する。光電変換を排除することで、NTTは遅延の最小化と電力消費の劇的な削減を目指している。2026年初頭には、データセンター間を接続するデジタルコヒーレントインターコネクト(DCI)を通じて技術をコンピューティング領域に拡張する「IOWN 2.0」の展開を開始した。目標は、AIデータセンターの消費電力を2026年までに従来の8分の1、2032年までに100分の1に削減することである。ブロードコムなどの主要半導体メーカーとの戦略的共同開発を通じ、2026年後半にはネットワークスイッチ向けの次世代光電融合デバイスの商用化を強力に推進している。さらに、独自の軽量AIプラットフォーム「tsuzumi」の商用化も進めており、ハードウェアの革新を補完する形でエンタープライズ展開を急速に拡大させている。

破壊的脅威と業界動向

圧倒的な地位にある一方、同社は複数の面で重大な逆風と破壊的脅威に直面している。国内通信市場では、楽天モバイルの参入が価格競争のデフレ要因となっている。楽天のシェアは約4%、契約数は900万件程度と小規模だが、積極的な価格戦略と営業キャッシュフローの黒字化に向けた動きが、NTTドコモに対して販売促進費の増加を強いており、利益率を圧迫している。より深刻な脅威は非地上系ネットワーク(NTN)の台頭である。SpaceXのStarlinkをはじめとする低軌道衛星通信事業者は、コネクティビティのパラダイムを塗り替えつつある。KDDIはStarlinkと提携し、未改造のスマートフォンで直接衛星と通信できるサービスを日本で開始した。これにより、遠隔地での地上基地局の必要性がなくなり、NTTドコモが長年最大の強みとしてきた「エリアの広さ」が直接的に脅かされている。さらに、国内の労働コスト上昇や人口減少という構造的な逆風により、統合ICT事業全体でも利益率の低下が顕在化している。

経営陣の実行力と資本配分

島田明社長の指揮下、経営陣は事業のリストラクチャリングと株主還元において極めて高い実績を示している。島田氏は、停滞する国内通信市場から高収益なグローバルエンタープライズ技術へと軸足を移す転換を断行した。NTTデータの完全子会社化とそれに続くNTT Ltd.との統合により、組織構造を合理化し、複雑なグローバル技術案件を獲得できる cohesive(結束した)な体制を構築した。また、レガシー部門における収益性の課題についても透明性を保っており、データセンターやIOWN構想への積極的な先行投資を優先し、2026年度の純利益目標を9,800億円とわずかに下方修正するガイダンスを示した。同時に、経営陣は厳格な資本規律を維持している。2026年5月には最大2,000億円の自社株買いを承認し、16期連続の増配を決定するなど、事業の底堅いキャッシュ創出能力に対する強い自信を裏付けている。

総評

NTTは、成熟した国内公益事業から高成長なグローバル技術インフラプロバイダーへの複雑な移行を、極めて精緻に遂行している。グローバルなデータセンター網の積極的な拡大とITサービス部門の急速なスケールアップにより、企業がクラウドやAIアーキテクチャへ移行する中で発生する膨大な価値を取り込む態勢が整いつつある。国内レガシー事業の利益率低下や衛星通信からの破壊的脅威といったリスクは存在するものの、揺るぎない国内シェアと強固なバランスシートが、これらの逆風を乗り越えるための防波堤となっている。

最大のカタリストは、IOWNアーキテクチャの商用化の成否にある。NTTが光電融合デバイスの展開スケジュールを維持できれば、AI産業が直面する最大の実存的危機である電力消費の問題を解決する存在となるだろう。株主への利益還元を継続しながら技術的な「堀」を築くための投資を惜しまない経営陣と合わせ、その本質的な姿は、伝統的な通信事業者の仮面を被った、極めてレジリエントで先見的なテック企業と言える。

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