Nvidia:AtreidesのGavin Baker氏が語る「AIはバブルではない」――市場と過剰投資の間に立ちはだかる「電力とウェハー」の壁
ポッドキャスト「Generating Alpha」(2026年7月8日配信)――Atreides Managementの創業者兼CIOが、テック銘柄のマルチプルがドットコム時代を下回る理由、BlackwellのROI低下が一時的である根拠、そしてTSMC首脳陣がかつてSam Altman氏を「ポッドキャスト・ブロ」と一蹴したエピソードを明かす
Atreides Managementの創業者兼CIOで、Fidelityで170億ドル規模のOTCポートフォリオを長年運用した実績を持つGavin Baker氏が、ポッドキャスト「Generating Alpha」に出演。AI銘柄がバブル状態にあるという市場の懸念を否定しつつ、このサイクルにおける真のリスクはマルチプル(株価倍率)ではなく、設備投資(Capex)にあると指摘した。
バブルの正体は「株価」ではなく「設備投資」
Baker氏のテクノロジーサイクルに対する分析は、Carlota Perez氏が提唱した金融資本と技術革命に関する理論を基盤としている。過去数百年の市場史を紐解くと、真に革命的な技術は必ずバブルを生む。それはMichael Mauboussin氏が指摘する「意見の多様性の欠如」によって引き起こされる。そのバブルはやがて過剰投資と需要の停滞、そして暴落を招く。Baker氏にとって重要な変数は、その構築が「負債」で賄われているのか、それとも「キャッシュフロー」で賄われているのかという点だ。
現在の状況について、同氏は断言する。「バブルだと言っている人は、現実を見ていない。テック銘柄のマルチプルは5〜6年前と同水準だ。2025年初頭から圧縮されており、現在は生活必需品セクターよりも割安な水準にある。これは極めて稀なことだ」。同氏がより重要視するのは、需要に対して供給能力が過剰になっていないかという点だ。この点については慎重な見方を示し、現在はBlackwell世代の支出がまだ利益を生んでいない学習ワークロードに集中しているため、「ROI(投資利益率)の小さな谷間」にあると認めた。
BlackwellのROI低下は一時的、エージェンティックAIはすでに到来
Baker氏は、最新のモデルリリースが利益率の転換点を示唆していると指摘する。Claude、ChatGPT 5.2、Grok 4.2、Codex 5.3といったBlackwell時代の初期チェックポイントを引き合いに、「エージェンティックAI(自律型AI)の時代が到来しており、BlackwellのROIは非常に高くなることは明白だ」と主張する。市場がAIによる大規模な雇用喪失を懸念する一方で、AI関連のメガキャップ銘柄を魅力的なバリエーションで放置している現状を同氏は皮肉る。この乖離は、AIの実用性に対する懐疑論というよりも、Kalecki的なデフレショックへの根強い恐怖に起因するものだと分析している。
「電力」と「ウェハー」、そしてドットコムバブルの教訓
Baker氏が2000年や2008年の再来を過度に恐れない理由は、3つの構造的な歯止めがあるからだ。第一に、ドットコム崩壊(ピークから80〜85%下落)の心理的トラウマが、20年間にわたりバリュエーションを抑制してきたこと。第二に、このサイクル特有の事情として、電力と半導体ウェハーの供給能力が根本的に不足していることだ。同氏は、この制約がデータセンター建設の加速を抑える自然なブレーキになると考えている。
TSMCの規律と「ポッドキャスト・ブロ」の逸話
電力のボトルネックが解消されたとしても(Baker氏は軌道上データセンターを解決策の一つに挙げる)、TSMC(台湾積体電路製造)がシステムの最終的な制約であり続けると指摘する。「料理と同じで、誰もが同じ材料を使う」と語り、ASMLのリソグラフィ装置など、業界全体で設備が標準化されていることを強調した。勝者と敗者を分けるのは実行力だ。「レシピや手順、試行錯誤の積み重ねが重要だ。先行すれば大きな優位性があり、追いつくのは困難だ」。Intelが競争に敗れたのは、エゴ主導の戦略的ミスが主因だと同氏は指摘する。
AIの設備投資ブームに対するTSMCの姿勢について、同氏は象徴的なエピソードを明かした。TSMCの幹部は、初期のSam Altman氏と面会した際、彼を「ポッドキャスト・ブロ(ポッドキャスト好きの若造)」と一蹴したという。「彼らはタフな集団であり、世界が望むほど急速にキャパシティを拡大するつもりはない」。投資家にとって、この規律は諸刃の剣だ。ウェハー供給過剰のリスクは減るが、ハイパースケーラーがどれだけ資金を投じようとも、AIコンピューティングの供給制約はすぐには緩和されないことを意味する。
NvidiaとJensen Huang氏――25年の視点
Baker氏とNvidiaの付き合いは、1999〜2000年まで遡る。当時Fidelityで小型半導体株を担当していた同氏は、Nvidiaと、Broadcomの現CEOであるHock Tan氏が率いていたIntegrated Circuit Systemsを担当していた。両CEOの戦略的本能には大きな違いがある。「Tan氏は利益が枯渇し、競争相手がいなくなった市場に参入して価格を吊り上げるモデル。対してNvidiaは、より攻撃的に市場を創造するアプローチだ」。同氏は、Tan氏、Jensen Huang氏、そしてAMDのLisa Su氏を、優秀なエンジニアリング人材を維持し続けてきた稀有な経営者として高く評価する。特に23歳の頃から知るHuang氏については、「間違いなく、私の人生で出会った中で最も卓越した2、3人の一人だ」と評した。
Teslaと脱炭素トレード
Baker氏が長年保有するもう一つの銘柄がTeslaだ。時価総額約15億ドル当時、Elon Musk氏との少人数での投資家ミーティングで、EVの第一原理(ファーストプリンシプル)に基づく説得力ある説明に感銘を受けたという。エネルギー密度の継続的な向上により、バッテリーは自動車の主要部品の中で唯一、インフレではなくデフレ要因となる。また、バッテリー配置により低重心化と安全性が向上する。同氏は、「TeslaとElonは、世界中の環境活動家を合わせたよりも多くの脱炭素を実現した。EVの普及を20〜30年加速させたことは、環境にとって計り知れない功績だ」と評価する。また、Tesla、SpaceX、xAIに共通するミッション主導の文化が、GoogleやMetaの広告最適化部門に流れるはずだった優秀なエンジニアを引き寄せていると分析する。
AIがゲーム業界に与える影響――プラットフォームの勝利とスタジオの苦境
具体的なセクター予測として、ビデオゲーム業界についても言及した。生成AIのワールドモデルにより、ゲーム開発コストは最大90%削減され、2億〜3億ドル規模のAAAタイトルの制作予算が圧縮されると予測する。これは、競争の激化に直面するゲームパブリッシャーには逆風だが、コンテンツ爆発の恩恵を受けるプラットフォーム所有者には追い風となる。一方で、AIがローカルのGPUレンダリングをすぐに置き換えるという見方には否定的だ。「今後5〜7年で、スマートフォンやiPad、PCに搭載されているGPUの代わりにAIでレンダリングを行うという考えは馬鹿げている」。例として『Monopoly Go』を挙げ、Veo3のようなモデルでレンダリングコストを試算すると、ゲームの収益を2桁以上上回ってしまうと指摘した。
より投機的な話題として、Neuralinkが人間の「IO問題(発話やタイピングといった情報交換のボトルネック)」を解決する可能性についても触れた。これはコンピューティングインフラに関する見解よりも長期で不確実性が高いとしつつも、将来的な経済的インパクトを秘めていると示唆した。
ドローダウンを乗り越える投資哲学
会話の多くはキャリアや心理面に割かれたが、Baker氏のドローダウン(資産下落)への対処法は、確信度の大きさを決める上で示唆に富む。25歳の時、大手製薬セクターの予測を外し、Fidelityでトップアナリストから最下位へ転落した経験が、現在の投資哲学の形成につながったという。元同僚Jennifer Urick氏の言葉を借りれば、「投資家は『早くパニックになる』か『遅れて倍賭けする』かのどちらかだ。両方をやる者はいない」。Baker氏は自身を「遅れて倍賭けする」投資家と位置づけ、この自己認識こそが単一の銘柄予測よりも長期的なパフォーマンスにとって重要だと語った。