Appleのティム・クックCEOが記録的な四半期決算で有終の美、後任ジョン・ターナス氏が直面する供給制約とメモリ価格の「100年に一度の洪水」
2026年度第3四半期決算説明会(2026年7月30日)――クック氏によるCEOとしての最後の説明会、ジョン・ターナス次期CEOへバトンタッチ
ティム・クック氏は、Appleの最高経営責任者(CEO)としての最後の四半期を、売上高1,094億ドルという記録的な数字で締めくくった。前年同期比16%増となり、iPhoneの22%増、Macの29%増という驚異的な伸びが寄与した。しかし、投資家にとっての焦点は、この華々しい実績ではなく、その先にある。Appleは9月期の売上高成長率見通しを9%〜11%と提示した。市場が予測していた10%台半ばからの減速は顕著であり、経営陣は、その原因は需要の減退ではなく、需要に供給が追いつかなくなったサプライチェーンにあると明言した。
供給制約はMacからiPhone、iPadへ拡大
今回の決算説明会で最も重要な開示は、クック氏がこの制約を従来の供給問題ではなく、需要予測のミスであると位置づけたことだ。「率直に言って、根本的な原因は通常の供給問題ではない。需要予測の問題だ。iPhoneとMacの両方が、我々の予想をはるかに上回る好調さを見せている」とクック氏は述べ、同社が「供給を前倒し」してきたものの、限界に達したと説明した。ケバン・パレクCFOは、先端ノードのSoC(システム・オン・チップ)の生産能力に関連するこの制約が、9月期にはMacだけでなくiPhoneやiPadにも波及すると認めた。6月時点では主にMacに集中していた。2.5ポイントの継続的な為替の逆風と合わせ、全社の成長率は9%〜11%のレンジに押し下げられ、iPhoneの成長率は22%から「10%台半ば」へと鈍化する見通しだ。クック氏は、この状況をAppleのチップパートナーに対する懸念と結びつける見方を慎重に否定し、国内のファウンドリーとの関係という憶測についても言及した。「これはパートナーやサプライヤーの問題ではない……iPhoneとMacの製品サイクルが極めて強力であり、我々の予想を上回る需要を生み出しているのだ」
メモリコストは「100年に一度の洪水」
Appleの9月期の売上総利益率(粗利率)見通しは47%〜48%(関税還付による約1ポイントのプラス影響を含む)で、6月の50.1%(同じく関税還付の2ポイント分を含む)から大幅な低下となる。パレク氏はアナリストに対し、3月から6月、そして6月から9月期見通しにかけての粗利率低下の100%以上は、メモリコストの上昇によるものだと説明した。これは、既存在庫の活用やメモリ以外の部品コストの低下、製品ミックスの好転によって一部相殺されている。クック氏は、この価格変動の規模について「メモリ価格が指数関数的に上昇しており、メモリ価格に関しては『100年に一度の洪水』とでも呼ぶべき状況にある」と強い言葉で表現した。その結果、iPadとMacの価格を「やむを得ず引き上げた」ことを認め、9月以降は既存在庫による恩恵が薄れる一方、メモリの市場価格は上昇し続けると警告した。調達面についてクック氏は、DRAM市場が実質的に3社による寡占状態にあると指摘し、供給源の多様化に向けて「あらゆる選択肢を検討している」と述べた。具体的な言及は避けたものの、新たなメモリパートナーの開拓を示唆した形だ。
サービス部門の成長鈍化、モバイルゲームの弱さが影響
サービス部門の売上高は6月期として過去最高の307億ドル(前年同期比12%増)を記録したが、3月期の16%増からは減速した。パレク氏の試算では、9月期は10%未満の成長となる見通しだ。減速の約半分は為替の影響だが、パレク氏はApp Storeにおける「モバイルゲームの逆風」や、1年前の映画『F1』公開に伴う比較対象の高さ、特定の国におけるApp Storeのビジネスモデル改定なども要因として挙げた。こうした軟調さはあるものの、Appleはクラウドサービスや決済サービスを含むすべてのサービスカテゴリーで過去最高を更新し、有料サブスクリプション数は15億件を突破した。App Storeの外部決済リンクに関する米国の裁判所の判決については現在も係争中であり、最高裁がAppleの上告を受理している。投資家は、App Storeの収益化への影響という観点から、引き続きこの法的リスクを注視する必要がある。
Siri AIは好調も、欧州・中国では規制の壁
クック氏は、WWDCで発表された新しい「Siri AI」の反響について、開発者やパブリックベータ版のフィードバックが「圧倒的に肯定的」であり、期待値は「測定不能なほど高い」と異例の熱量で語った。同氏は、この製品がユーザー体験の向上だけでなく、計算コストの抑制という戦略的観点からも重要であると位置づけ、「リクエストの一定割合をデバイス上で処理できることは、非常に戦略的であり、ある種の競争上の武器になる」と述べた。しかし、Siri AIの展開は地域的に不完全なままだ。クック氏は、欧州連合(EU)や中国では同時リリースされないことを認めた。EUでは欧州委員会と「緊密に連携」して解決策を探っているが、Mac版はDMA(デジタル市場法)の規制対象外であるため影響を受けない。中国では、先週ようやく「Clean Up」などの初期のApple Intelligence機能の提供について規制当局の承認を得たばかりで、Siri AIの承認は依然として保留中だ。収益化についてクック氏は、AIのヘビーユーザー向けにiCloud+のプランアップグレードなどを通じて収益化を図る考えを示したが、コスト構造については「まだ完全な計画はない……利用状況を見ながら判断する」と慎重な姿勢を見せた。
Broadcomとの契約で米国内のシリコン戦略を強化
AppleはBroadcomと複数年の新規契約を締結したことを明らかにした。契約額は300億ドルを超えると見込まれ、カスタムシリコン部品や無線接続技術を米国内で設計・製造する。これは同社にとって過去最大の米国内製造コミットメントであり、エンドツーエンドの米国内シリコンサプライチェーン構築に向けた一歩となる。これは、以前発表された4年間で6,000億ドルを投じる米国内投資計画の一環であり、ヒューストンに新設されるAppleの先端製造センターでは、年内にMac miniの生産が開始される予定だ。クック氏は、現在アリゾナ州の拠点から年間1億個以上の部品を調達していると述べ、ネットワーク内の他地域でチップ供給不足に直面する中でも、国内回帰(リショアリング)を推進する姿勢を強調した。
Apple Upgradeリースプログラムと法人向けシェア拡大
AppleはKlarnaと提携し、ハードウェアのリースプログラム「Apple Upgrade」を開始した。現在は米国内の直営店限定だが、クック氏は、競合他社と比較したApple製品の高い残存価値を活かす手段であり、定期的にアップグレードする顧客の参入コストを下げられると説明した。ただし、提供範囲が限定的なため、短期的な普及については慎重な見方を示した。法人・教育市場では、具体的な採用事例が挙がっている。モルガン・スタンレーは企業支給端末への移行に伴い2万台以上のiPhone 17を導入し、クレディ・アグリコルはMacBook Pro上のオンデバイスAIを活用して手作業による規制対応時間を80%以上削減した。また、教育機関向けのMacBook Neoの導入事例の約半分で、WindowsやChromebookからの置き換えが進んだ。これらのデータは、オンデバイスAIの経済性(クラウドトークンコストの削減、プライバシーとセキュリティの向上)が、単なる消費者向けマーケティングを超え、法人市場における競争力強化の手段になりつつあるという経営陣の主張を裏付けている。
クック氏からターナス氏へ、数字で語るバトンタッチ
クック氏は最後の説明会で、株主とアナリストに感謝を述べ、正式にターナス氏へバトンを渡した。ターナス氏は、AIネイティブなデバイス参入企業による競争上の脅威に関する質問に答えたものの、具体的な言及は避けた。経営陣の交代は事業戦略に混乱をもたらすものではないようだが、ターナス氏が引き継ぐ9月期は、利益率の低下、損益計算書に影響を及ぼし続けるメモリコストの衝撃、そして経営陣自らが短期的な完全解決は不可能と認める供給制約という課題が山積している。9%〜11%という売上高成長見通し、48%を下回る粗利率見通し、そしてメモリ価格の緩和は当面見込めないという現実こそが、今回の決算が示す真のメッセージであり、その下には記録的な業績という事実が隠されている。