Chemify対談:リー・クローニンが語る分子計算、アセンブリ理論、ジェネシス・プラットフォーム
2026年8月:Chemify CEOリー・クローニンへのディープインタビュー
リー・クローニン、DARPA、そしてケミカルロボット
ホスト:リー、また出演してもらえるなんて本当に嬉しいよ。前回来てくれたのは第289回だったから、1年半くらい前かな。番組の終わりにカメラを止めた途端に、「あ、実はDARPA(国防高等研究計画局)の仕事もしてたんだよね」なんてサラッと言いのけたんだ。こっちは「いやいや、それポッドキャストの最初で言うべきやつでしょ!」ってツッコミたくなったよ。本人にとっては大したことないかもしれないけど、こっちは大のDARPAファンだからさ。どうしてDARPAの仕事が「大したことない」なんて言えるんだい?
リー・クローニン:いや、そんなつもりはないんだけどね。えっと、正確に言うと……これまでDARPAからいくつ助成金をもらったかな? DARPAっていうのは資金提供機関だよね。グラント(助成金)を出す組織だ。彼らが設立された理由を知っているかい? 君も調べれば分かると思うけど、ソ連がスプートニクを打ち上げたとき、アメリカはあの衛星の登場を全く予想していなかった。ソ連が衛星を打ち上げたのは、たしか1950年代だったと思う。DARPAは基本的に、そうした「戦略的な意表を突かれる事態(ストラテジック・サプライズ)」を排除するために設立されたんだ。だから、大金を使って、クレイジーなことをやっている人々に資金を渡し、新しいことに挑戦する権限を持たせようとした。インターネットや自動運転車といった技術も、突き詰めればDARPAが何らかの形で関わっていたと言えるかもしれない。そして何年か前、DARPAは化学とAIに注目し始めたんだ。今のこうしたAIブームが起きる、ずっと昔の話さ。彼らは「Make-It」というプログラムを立ち上げた。そのプログラムを始めた担当者が、僕の論文からある用語を引用していてね、僕はちょっと不機嫌になったんだよ。だって、僕には何の資金もくれなかったからね。MITやスタンフォード研究所にはお金を出したのに。
ホスト:DARPAがリー・クローニンをパクったわけだ。
リー・クローニン:その「P」のつく言葉(盗作:Plagiarism)は僕じゃなくて君が言ったんだからね。彼らは「インスピレーションを受けた」のさ。ともかく、彼らから電話があって、僕がやろうとしていることの段落を無断で使われたことについて、僕は激しく文句を言ったんだ。そしたら彼らはこう言った。「クローニン博士、お電話したのは、まさにその件についてお話ししたいからです」ってね。僕は「わかったよ」と答えた。結局どうなったかというと、彼らは僕にホワイトペーパー(企画書)を提出してほしかったんだ。それで僕は、「じゃあ、巨額の資金をくれ」と言った。そしたら彼らは、「もう少し金額を抑えて、うちのプログラムに合う形でやってくれないか。これはアメリカの納税者の資金だし、君は海外でこの分野をやっている数少ないグループの一つだから、我々にとっても価値があると考えている」と言ってきたのさ。
ホスト:具体的に、どんなことを頼まれたんだい?
リー・クローニン:彼らの「Make-It」プログラムの一環さ。要するに、「必要なときに、その場で(戦地や月面、南極などにおいて)、オンデマンドで分子を合成できるか?」というものだ。化学をロボット化するにはどうすればいいか?ということね。そして彼らにその話を振られたとき、僕はすでに何年もケミカルロボットを開発していたからね。
ホスト:皆さん、ここで3つお知らせです。1つ目、チャンネル登録がまだの方は、ぜひチャンネル登録をお願いします。本当に大きな力になります。2つ目、フルエピソードの早期未編集版をご覧になりたい方は、概要欄のリンクまたは固定コメントからPatreon(ペイトリオッツ)にご参加ください。そして3つ目、番組の切り抜き動画を作って収益を得たいという方は、下の概要欄にあるDiscordのリンクからクリッピング・コミュニティに参加してください。――リー、君は長年ケミカルロボットを作り続けているんだよね。
リー・クローニン:ああ、そうだよ。
ホスト:それはかなり重みのある発言だな。
リー・クローニン:2012年からだからね、もう14年ほどになる。
リー・クローニンに馴染みがない人のために、その特殊なケミカルロボットとはどういうものか定義してもらえるかい?
リー・クローニン:指示を与えると、その通りに化学反応を実行してくれるロボットのことさ。どんなものか説明することもできるけど、君がさっき聞いたDARPAの質問に先に答えさせてくれ。それが彼らから受け取った最初の助成金(Make-It)で、その後も資金提供を続けてくれた。次に分子を使った計算(モレキュラー・コンピューティング)、つまり分子コンピュータを作るためのグラントをもらった。これはアメリカ国内のコンソーシアムとして、他のいくつかのグループと一緒に参加したんだ。そして3つ目が、科学的発見のためにAIを活用するプロジェクトのための助成金だ。僕がもらったDARPAのグラントは、確かこの3つだな。
ホスト:AIのグラントをもらったのは何年だっけ?
リー・クローニン:だいたい2018年か2019年あたりだな。そこからパンデミックの時期もずっと続いた。パンデミックの間は少し厳しかったけどね。でも、DARPAは素晴らしい組織だよ。彼らは専門家がいる場所へ直接出向く。アメリカに対して敵対的と思われる国の人間には助成金をを出さない。ウサマ・ビン・ラディンには資金を出さなかったはずだ。それに、彼らは新しい分野を立ち上げたいと考えているし、明らかに戦略的な重要性を持つ分野を始動させたいと思っている。イギリスとアメリカは、長い間さまざまな科学分野で連携してきた。だから、これは非常に有意義だと思ったんだ。僕は分子コンピュータも作ったんだ。化学物質を使って計算を行わせるものだね。なぜなら僕は――
ホスト:それってどういう意味だい?
リー・クローニン:いや、自分でもよく分かってなかったよ。まあ、今はどういう意味か分かっているけどね。コンピュータって何をするものだろう? 話があちこちに飛ぶけど、まずは「化学コンピュータとは何か」から始めよう。化学コンピュータとは、インプット(データ)を投入できる化学実験セットのようなものだ。何らかの方法で化学反応系にデータを入力すると、化学反応がそのデータを処理してくれる。シリコン上のトランジスタの代わりに化学反応を使うわけだ。そして、何らかの方法でその結果を読み出す。僕は「ベロウソフ・ジャボチンスキー反応(BZ反応)」と呼ばれる化学時計を利用して化学コンピュータを作った。この反応がやっているのは、「チクタク、チクタク」あるいは「赤・青、赤・青、赤・青」と変化することだけだ。要するに、たくさんの化学物質を容器に注ぐ。グラスのようなビーカーを半分ほど満たして、いくつかの薬品を入れ、何もしずにただ見ているだけで、撹拌(かくはん)しなくても勝手に赤と青に点滅し続けるんだ。撹拌を止めると一度止まるんだけど、その後、自発的にどちらかの色にパッと変わる。いわゆる「興奮性媒体(エキサイタブル・メディア)」と呼ばれるものだ。ニューロン(神経細胞)が発火する仕組みに少し似ているね。だから僕は、「これって面白いアイデアだな。撹拌子のグリッドを作ってみたらどうだろう?」と思ったんだ。そこで、小さな本くらいのサイズのグリッドを3Dプリンターで作った。7×7のグリッドで、49個の小さなウェル(窪み)がある。それぞれのウェルに撹拌子を入れ、その下に小さなモーターを置いて撹拌し、化学反応を起こさせた。すると、グリッド全体に色が伝播していった。ウェブカメラを使ってその色の変化を読み取ったんだ。撹拌子がオンのときは「1」、オフのときは「0」とした。そして、1と0で何らかの入力を表現するようにプリントアウトし、それを読み取って何が起きているのかを解析した。最初は文字通り手探りで作ったのさ。
ホスト:話し終わったら教えてくれよ。
ブレイン・ゲルとAIの「意識」の有無
リー・クローニン:おいおい、DARPAのプロジェクトだぞ。クレイジーで当然だろ(笑)。まあ聞いてくれ。何がやりたかったかというと――BZ反応は時計、つまり「チクタク、チクタク」刻むものだ。たくさんの時計を並べて、それらを同期させ、非同期化させながら情報を処理させることができないかと考えたんだ。実際、これを使ってパターンを分類したり、プリミティブな(原始的な)ニューラルネットワークを作ったりした。このニューラルネットワークの優れたところは、文字通り電力をほとんど消費せず、エラー訂正能力が高く、画像をきれいに修復できる点だった。ChatGPTを使ったり、Nvidiaのアーキテクチャを使って勾配降下法(グラディエント・ディセント)を実行したりするのと似たようなものさ。勾配降下法とは何か? 要するに、ニューラルネットワークの重み付けを変更してトレーニング能力を最大化することだ。重み(ウェイト)と活性化(アクティベーション)の2つが異なる要素として存在するからね。これは化学的なニューラルネットワークであり、最初の第一歩だった。今は「ブレイン・ゲル(脳型ゲル)」を作っているところだけど、それはまた別の話だな。
ホスト:今度はブレイン・ゲルを作っているのかい?
リー・クローニン:ああ、さっきの仕組みをゲル状のものに応용したんだ。液体だとドロドロしていて記憶保持があまり良くなかったからね。でもゲルに閉じ込めれば、ポリマーゲルがスイッチとして機能して、システムがより長期間にわたって学習を続けられるようにできるかもしれないと考えたのさ。
ホスト:科学的には、それどうやって機能するんだい?
リー・クローニン:全く分からない。だからやったんだよ。
ホスト:つまり、今まさに解き明かそうとしているところなんだな。
リー・クローニン:そう。まあ、あちこち手を出しているけど、いいじゃないか。『リック・アンド・モーティ』の「ピクルス・リック」のエピソードからインスピレーションを受けたんだ。それで、ピクルスのガーキン(小型キュウリ)を取って、家庭用の240ボルトのコンセントにつなぎ、――家にある僕の作業場を知っているだろ?――電極をいくつか使って、ガーキンに「丸」と「四角」の違いを認識できるようにプログラミングしようとしたんだ。でも、何度も爆発しちまった。加熱しすぎて爆発を繰り返したのさ。ガーキンが良い媒体になると思ったんだけどね――まあ、ガーキンを使ったコンピュータなんて良さそうに思えたんだよ。
ホスト:君、今適当に話を捏造(ねつぞう)してないだろうね?
リー・クローニン:とにかく、ガーキンを加熱して投入するんだ。ばかばかしく聞こえるだろう。240ボルトの電圧をかけて加熱する。何が起きるか? 塩分が含まれているから、ナトリウムイオンやカリウムイオンが移動する。ガーキンを塩水に浸しているから、電気を通す状態になっている。そこに高電圧の交流をかけると加熱され、イオンが動き回る。すると文字通り、BZ反応が点滅するのと少し似たような興奮性媒体ができるんだ。そして小さな電極を挿し込み、小さなグリッドを作って、ガーキンが四角と丸の区別をつけられるようにトレーニングしようとした。可塑性を持たせたわけだ。セメントを一度液状に戻して、何かを学習させてから固めるようなものさ。ただ問題は、実際にトレーニングを完了させる前にガーキンが爆発し続けちゃったことだけどね。
ホスト:それ、自宅のラボでやったのかい?
リー・クローニン:家でやったよ。大学でそんな爆発するガーキンをやったら、あまり良い顔をされないだろうからね(笑)。で、話をブレイン・ゲルに早送りしよう。ゲルを使って、ゲル自体に電気を通す――ワイヤーのように電気を通せるようにして、両面に電極を置き、カメラを使って片側の表面をプログラミングすればいいんじゃないかと思ったんだ。視覚的フィードバックをゲルに入力し、カメラにさまざまな物体を見せながら読み取る。ゲルは物体のエッジ(輪郭)の違いを認識できるか? OpenCVやシリコンベースのシステムを使うのと同じようにエッジ検出のトレーニングができるか? Jetson Nanoのようなデバイスを使うのと似たような感覚さ。物質を使って計算ができるかどうか試していたんだ。結果として、できることが分かった。でもさっき君が「どうやってそれが機能するんだい?」と聞いて僕が笑ったのは、話を適当に作っているからじゃなくて、物質をプログラミングする方法というのは、物質が刺激に応じて時間とともに応答するからなんだ。だから、ほとんどが試行錯誤の世界なのさ。生物の脳が進化してきた過程によく似ているね。脳は何十億年もの時間をかけて進化してきた。脳にはさまざまなプログラミングの期間がある。進化によってプログラミングされたわけだ。君の脳は、いわば38億年の歴史を持っている。それが「時間その1」だ。次に、両親によって君が作られた。お母さんのお腹の中で9ヶ月間かけて脳が成長し、プログラミングが始まりだす。そして誕生してから、爆発的な発達期を迎える。21歳か22歳になる頃には、脳はほぼ完成状態になる。そして脳はリアルタイムでデータを処理できるようになる。脳が進化し、成長し、プログラミングされ、活性化し、機能し続けるという、こうしたさまざまな発達段階が存在するんだ。そして、僕たちは脳がどうやって動いているのか、全く分かっていない。脳に特有のものとは何か? それは、意識、感覚、目的意識、そして自分が「個人」であると主張する生きたシステムだ。すべての人間に話を聞いてごらん。コミュニケーションが取れるほとんどの人間は、自分が「個人」であると主張するはずだ。
ホスト:おい、お前は普通の感覚でいるために15分おきにニコチンパウチを欲しがっているのか? ジョーイ・D(Joey D.)もそうだ。あいつは完全に中毒だ。だからこそ、DはUltra社の新しいエナジーパウチを使い始めた。このモンスターのような男にとって、それは極上のアップグレードだったのさ。Ultraのパウチは、1つのパウチで瞬時にエネルギーをチャージできる。そうだろ、D? あいつは約1ヶ月間これに夢中で、朝一番、仕事中、あるいはワークアウトの前に気合を入れたいとき、強烈なエネルギーブーストを得ているんだ。これは100%ニコチンフリーのパウチで、ニコチンやコーヒー、他のパウチとはまったく違う方法でエネルギーを供給してくれる。Ultraエナジーパウチにはカフェインも少し含まれているから、ちょっとしたリフトアップ効果もある。しかし本当の違いは、他の成分にある。エネルギーをスムーズにし、エネルギー切れ(クラッシュ)を抑えるL-テアニン、炭水化物や脂肪、タンパク質を脳の燃料に変えるビタミンB3、そして気分を落ち着かせ回復を助けるビタミンB6とビタミンB12が配合されているんだ。10〜15分しか効果がないニコチンとは違って、Ultraパウチは30分から60分間持続する瞬時のエネルギーを届けてくれる。だから俺がポッドキャスト中にテーブルの下でこいつにパウチを渡し続けて、あいつが起きていられるようにしているのさ。何より素晴らしいのは、これがクリーンで、本当に体に良いパウチだということだ。ニコチンゼロ、カロリーゼロ、砂糖ゼロ、怪しげなガソリンスタンドの化学物質もゼロ。Ultraは、ニコチンも砂糖もカロリーもなしで、瞬時のエネルギー、精神的明晰さ、そして気分の向上をもたらしてくれる究極の罪悪感のないパウチだ。Ultraは世界中のプロアスリートや起業家、エンジニアから信頼されている。誰にでもおすすめできる代物だ。そして今なら、リスナーの皆様はtakeultra.comにてコード「JULIAN」を使用することで、この究極の罪悪感のないパウチを15%OFFで購入できる。リンクは下の概要欄にある。繰り返すが、takeultra.comでコード「JULIAN」を入力して15%OFFを手に入れてくれ。購入後、どこでこの番組を知ったか聞かれるから、「俺が送った」と答えて番組を応援してくれよ。――リー、君は、脳というものは単にそれをプログラミングしているだけのものだと考えているのかい? 必ずしもそれだけが全てというわけではないかもしれない?
リー・クローニン:いや、そうじゃない。非常に興味深い何かがそこにあると思う。脳だけで完結しているとは思わないね。生物系は非常に複雑だが、人間がユニークなのは、言語を教えれば、自分が「個人」であると主張する点だ。化学物質がどのようにして意識を生み出すのか、そして化学物質がどのようにして「自分が自分である」という主張や、独自の個性を持って行動するという事実を生み出すのか――その仕組みはまだ僕たちには分かっていない。この時代においてそれは非常に重要だ。というのも、私たちはAIを「意識を持つ存在(エンティティ)」として見なそうとしているが、実際には彼らはそうではないからだ。
ホスト:なるほど、君はこれまでも多くの場所でその主張をしているよね。例えば、多くのAIドゥーマー(終末論者)たちは、将来的にAIが人間なしで存在できるようになるという飛躍をした見方をしているが、君はそれは違うと考えている。
リー・クローニン:ああ、明らかに違うね。それは空想的妄想(ファンタスティカル)だ。
ホスト:なぜそれを空想的妄想だと言うんだい?
リー・クローニン:だって、何の証拠もないからさ。AIの起源を振り返ってみよう。生命の起源までさかのぼってみてもいい。AIという言葉が生まれたのは――まあ、ダートマス会議だったはずだ(調べてみるといい)。陰謀論はいくらでも作れるけれどね。ただ、DARPAはごく初期の頃からAIの研究に資金を出していた。ダートマス大学で「AI」という言葉が作られたんだ。何年だったかな? 1950年代、1956年だったか、まあかなり昔のことだ。で、コンピュータとは何かを考えてみると、コンピュータとは決定論的に構築されたシステムだ。スイッチの塊だよね。それらのスイッチの仕組みは、ハイとロー(高と低)で成り立っている。それらを組み合わせて論理回路(ロジックゲート)を作る。コンピュータにおける普遍的なロジックゲートは「NANDゲート(否定論理積)」だ。
ホスト:NANDゲートか。
リー・クローニン:そう、NOT-AND(否定AND)だね。NOTを使えば何でも作れる。メモリも、あらゆるものも構築できる。それらをどうアーキテクチャとして組み合わせるかによって、今日私たちが手にしているすべてのシリコンインフラが築かれている。これを聴いている電気エンジニアの中には、「いや、それは違う」と叫んでいる人もいるかもしれない。ASIC(特定用途向け集積回路)と呼ばれるものもあって、これならアナログ電圧を扱える場合もある。通常のトランジスタでは、通常0から5Vの電圧を扱う。5Vはハイ(1)、0Vはロー(0)、その中間もある。0寄りならロー、5V寄りなら1と呼ぶ。ただ、僕は専門の電気エンジニアではないから、今日のASICが具体的にどう構築されているかは分からないよ。お遊びでいくつかのASICを設計したことはあるけれどね。
ホスト:お遊びで、ね。
リー・クローニン:ああ。脳を作りたいからね。デバイス、つまり化学的な脳を作りたいなら、その化学的な脳にアクセスするためのアナログ電気システムを自分で設計しなければならない。その話はまた後でにしよう。
ホスト:そうだね、あとでもう一度戻ろう。
リー・クローニン:コンピュータで最も重要なのは、ある意味でかなり決定論的であり、デジタルであるということだ。つまり、入力を入れれば処理が進む。今日のAIは、そうしたデジタルコンピュータをベースにしており、すべてのデジタルインフラを利用している。膨大な量のデータを取り込んでモデルをトレーニングすれば、そのモデルは素晴らしい仕事をやってのける。しかし、ドゥーマーたちは「こうしたモデルが暴走するかもしれない」と言う。もちろん、悪意を持った人間が運用すれば、モデルが暴走することはあるだろう。そこには常に「人間の介入(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」が存在する。発電所の電源を入れているのは人間だ。AIは「再帰的に自己プログラミングする」といった言葉で表現されるけれど、要するに、君と僕が今すぐプログラムのループを持つAIを作れるのと同じことだ――「この処理を行え、もしこういう事態が発生したらこうせよ、目的を達成するか誰かがコンピュータの電源を切るまで続けろ」という風にね。それは昔からずっと変わらない。そうしたプログラムのループは常に存在してきたんだ。
サム・アルトマン、アンソロピック、オープンAIの比較
リー・クローニン:だから、AIドゥーマーたちはファンタジックな現実にとらわれているわけだ。「AIが世界を乗っ取って核爆発を起こすかもしれない」なんてね。僕がより現実的だと思うのは、悪意を持った人間がAIを悪用して悪事を働くということであり、そちらのほうを本当に懸念している。だから、AIドゥーマーの存在をすべて無視しているわけではない。「魔法のように勝手にAIが暴走して世界を滅ぼす」と言っているドゥーマーたちを相手にしていないだけだ。
ホスト:なるほど、分かったよ。
リー・クローニン:それが大きな懸念材料だと思っている。彼らは「魔法」について語っているけれど、実際には「AIを使ってこのシステムをハッキングして損害を与えてやろう」とか、「SNSでソーシャルエンジニアリング(心理的誘導)を行って何らかの効果を引き出すためにAIボットシステムを使おう」といった、悪意あるアクター(Bad Actor)が存在するというだけの話なのだからね。だから、どんなAIにも意識(センティエンス)の証拠など見たことがない。意識は例外なく人間から来るものだ。インターネット上のデータでモデルをトレーニングしたことで得られる意識の痕跡なんてものはね。Claudeに向かって「生きているのか?」と聞けば、Claudeはおそらく「いいえ、私は生きていませんが……」と答え、その中で「私(I)」という代名詞を使うだろう。しかし、この擬人化(アントロポモーフィズム)こそが、人間をそのエンティティとの会話中毒に引き込むための罠にほかならない。
ホスト:でも、もしそれが単なる技術的な細部にすぎず、意識を持つわけではないとしても――これから少し話を大幅に単純化させてもらうけれど――プラグの抜き差しだけで簡単に制御できないようなテクノロジーを、最終的に私たちが作り出すことができたとしたらどうだろう? その結果として、意識はないが極めて高い知性を持ち、共感能力や感情、人間性のかけらも持たないAIが、自らが引き起こす重大な結果を理解しないまま行動を起こしてしまったら? そういうことが起こり得るという主張には、一理あると思わないかい?
リー・クローニン:その発言の意図が完全に飲み込めたわけではないけれど、言いたいことは分かるから、あまり難解な言い方はしないでおこう。AIに「知性」はあるのか? まず「知性」を定義しなければならない。僕が非常に混乱するのは、「あと数年のうちに、AIはあらゆる人間よりも賢くなる」と言う人たちがいることだ。それってどういう意味なんだ? 知性とは一体何だ? 何かを測定できないとしたら、AIが自発的に何かを引き起こすことができるだろうか? いや、できない。人間がシステムの構築方法を理解していないことが原因で、悪いことが起きてしまうことはあるだろうか? ソーシャルエンジニアリングを考えてみよう。どんなシステムでもいい。ちょっと難しい話になるけれど、例えば市が「今後は都市計画の許可を得るためには、建物を建てるたびにすべての角に木を植えなければならない」というような条例を作ったとする。すると気づかないうちに、街中がランダムな木だらけになってしまう。人間が決定を下し、政策を決めると、それが伝播していく。それが企業であれ、機関であれ、ソフトウェアのアルゴリズムであれ、システムによって伝播していくんだ。そして、そこには予期せぬ結果が伴う。AIが目標を達成しようとする過程で悪いことをしてしまうというシナリオは十分にあり得ると思う。しかし、そのプロセスには常に人間が関わっている。僕が言いたいのは、AIが悪いわけではなく、人間が悪いか、あるいはトレーニングデータが悪いということだ。
ホスト:なるほどね。もしその意見に同意するとして――君の言うことが正しいかもしれないし、正直、人間が主導権を握ったままでいてほしいと個人的には願うけれど――しかし、世の中にはトリガー(引き金)を握っているソシオパス(反社会的人格者)のような連中もいるよね。世界中にいるテクノクラート(技術官僚)の一部は、全員とは言わないまでも、そういう分類に当てはまるかもしれない。例えば、「人類の終わり」について冗談を言うようなサム・アルトマンのような人物が、「あぁ、今日はAIと一緒に『World of Warcraft(世界オブ・ウォーククラフト)』でもプレイして、好き勝手に暴走させてみるか」と言い出したとき、それを止めるものは一体何があるんだい?
リー・クローニン:企業やテクノロジーを構築している人たちに対しては、僕は大いに共感する部分もあるんだ。僕自身、今まさに会社を立ち上げているところだしね(その話はまた後でしたい)。まず一歩引いて考えなければならないのは、「私たちはどのようにテクノロジーを構築しているのか?」「そのテクノロジーをどのように規制しているのか?」「そして、それらのテクノロジーの規制からどのようにフィードバックを得て、人類にとって良い結果がもらえるようにしているのか?」ということだ。これがすでに起きてしまった例を挙げてみよう。私たちはインターネットを手に入れ、そしてソーシャルメディアを手に入れた。ソーシャルメディアにおける決定的な失敗とは何だったのか? 今のソーシャルメディアのあり方が特に素晴らしい状態だと言える人は誰もいないだろう。その失敗は何だったのか? 政策立案者たちがやるべきだった決定的なことが1つあったと思う。それは、ソーシャルメディアを「出版社」として扱うべきだったということだ。アメリカで言えば「通信品位法230条」のようなものがあるけれど、もし出版社として扱われるなら、自分のプラットフォームに掲載するすべてのコンテンツに対して責任を負わなければならない。だから、デタラメや嘘が出回ったときに、「いや、これは明らかに嘘だから削除しなさい」と言わなければならない。Facebook、X(旧Twitter)、Instagram、これらすべてのプラットフォームは、自分たちが発信するコンテンツに対して責任を負っていない。僕にとって、それは本当の問題だ。なぜなら、それらすべてがメディアであるにもかかわらず――もちろん、印刷機を作った人間が、そこで印刷された悪質な本に対して責任を負わされないのと同じように――僕が作るケミカルロボットについても、そこで誰かが悪質な化学物質を作ったとしたら、僕が責任を問われるのかという議論になるかもしれない。しかし、ソーシャルメディアから学べる教訓はあるはずだ。私たちはそれを適切に規制せず、責任を問わなかった。だから、今後それがどう進化していくのかを予測するのは非常に難しい。
とはいえ、もし誰かが「地獄のような空間」ではなく、居心地の良い素晴らしいソーシャルメディアを発明したとしたらどうだろう? なぜ人間がソーシャルメディアに惹きつけられるのかを理解する必要がある。つまり「怒りは注目を集める」ということだ。怒りを生み出せば、システムが欲しがる注目が手に入る。もし――全員が空を飛んでハッピーに暮らすメリー・ポピンズの世界になれとは言わないが――ソーシャルメディアの心理学と、それが特にティーンエイジャーに与える悪影響を理解しなければならない。僕が育った頃にはソーシャルメディアなんてなかったし、今のソーシャルメディアは多くのティーンエイジャーにとって間違いなくマイナスになっていると思う。しかし一方で、身近に社交の場やユースクラブがない環境にいる子どもたちにとっては、オンラインでゲームをしたり、交流したり、支え合ったりできる場所になっているという側面を指摘する人もいる。ネガティブな側面ばかりが誇張されるため、そうしたポジティブな側面が見えなくなっているのも事実だ。
だから、AIに関しても同様のジレンマが存在する。フリーマーケットと自由な人間が物事を決定していくのを、どうやって見守るべきなのか? というのも、AnthropicとOpenAIの間には違いがある。Anthropicのモデルは、何らかの高尚な目的が組み込まれているため、モデル上で自由なことがほとんどできない。一方で、OpenAIのスタンスは、「いや、私はあくまであなたに仕える存在(エンティティ)だ」というものだ。そして、もし僕がそのツールを使って悪事を働き、法律を破ったとしたら、それは僕個人が責任を問われるべきなのだ。
ホスト:確かにね。
リー・クローニン:現在、そうしたアプローチの違いによる分裂が起きているように見える。しかし、その議論は「AIが暴走するかもしれない」と叫ぶドゥーマーたちによって曇らされている。僕には、AIが勝手に暴走するメカニズムが理解できない。ただ、人間が細工(ティンカリング)をするメカニズムや、偽情報をばらまくメカニズム、あるいはこれまでにない陰謀論を拡散させるメカニズムなら理解できる。こんな狂った話がある。歴史上、本当に秘密裏に保たれた大陰謀なんてものはほとんど存在しない。人間が秘密を守り通すことができないからだ。しかし、優れたAIがあれば、未来のシナリオをかなり上手にシミュレートして遊ぶことができるだろう。それこそが懸念すべきことの一つかもしれない。第二次世界大戦後、勝者たちが歴史を語るとき、勝者自身が歴史の教科書を書くわけだから、現代の歴史そのものが一つの壮大な美化された陰謀論であると言えなくもないだろう?
ホスト:ああ、勝者によって書かれる部分というのは常に一定の割合で存在するよね。どんなストーリーを見ても、語られたことが100%真実ということはあり得ない。ただ、僕は「5%が事実と違っていたからといって、残り100%すべてが嘘だ」と主張するようなやり方には異議を唱えたいね。どこまでを信じるかには慎重にならないといけない。
リー・クローニン:まったくその通りだ。そして現代において、それは本当に重要なことだ。「何を検証でき、何が自分にとってインパクトがあるのか」というクリティカル・リーディング(批判的思考)が極めて大切なんだ。だからこそ、AIは批判的思考の教育を加速させることになると僕は考えている。今、僕が非常に懸念しているのは、若い人たちが最初に仕事を得て、失敗を重ね、必要な訓練や熟練度を身につけ、「苦労する感覚」を味わう機会がどう奪われていくかということだ。フラストレーション(フラストレーション)こそが最高のトレーナーなのだからね。今の若者たちは、イライラしたくないからといってすぐにChatGPTを使ってしまう。しかし、これは一時的な異常事態(アバレーション)だと僕は思っている。多くのツールは本当に素晴らしい。コーディングツールなどは驚異的だ。だから僕は――ここで自分のスタンスを少しシフトさせることになるが――もしかすると、AIが私たち全員を救ってくれるのではないかとすら思っているんだ。
ホスト:私たち全員を救う、か。
「温度」を測るように「知性」を定義する
リー・クローニン:そうだ、ソーシャルメディアがあれほどのカオス(混乱)状態なのだから、AIが私たちを救ってくれるかもしれない。
ホスト:この番組を聴いている人なら知っていると思うが、僕は毎日宗教儀式のようにサプリメントを欠かさず飲んでいる。同時に、サプリメント業界がいかに怪しげな粗悪品であふれ返っているかについても話してきたよね。おまけに、健康に関する専門家同士の意見はバラバラだ。ググってみても期待される効果についてあまりにも多様な意見が出てきて、結局始める前よりよけいに混乱してしまう。しかし、Blueprint(ブループリント)の「ロンジェビティ・ミックス(Longevity Mix)」ならその問題とは無縁だ。Blueprintは科学的根拠に基づいて作られているから、憶測で選ぶ必要はもうない。使われているすべての成分が、TikTokの流行りではなく、集団レベルの研究と現実世界でのテストによってその地位を勝ち取っている。Blueprintなら、ピルケースいっぱいのサプリメントを飲む必要はない。スプーン1杯を水に溶かして混ぜるだけで終わりだ。そのたった一杯が、エネルギー、認知パフォーマンス、気分、集中力、睡眠、細胞の抵抗力、そして健康的なエイジングをサポートしてくれる。マグネシウム、タウリン、グリシン、クレアチンなどが配合されているんだ。さらに、Blueprintは純度や重金属などの毒素について第三者機関によるテストを受けており、その結果をサイトで公開しているから、サプリメントに何が入っているのか正確に自分の目で確かめることができる。Blueprintが提供しているのはロンジェビティ・ミックスだけではない。エッセンシャル・カプセル、高ポリフェノールオリーブオイル、オメガ3、コラーゲンペプチドなども揃っている。これは科学に裏打ちされ、精密な用量で作られた、一切の妥協のない製品だ。期間限定で、新規のお客様はblueprint.bryanjohnson.comにてコード「JULIAN」をチェックアウト時に使用すると、20%OFFに加え送料無料で購入できる。リンクは下の概要欄にある。繰り返すが、blueprint.bryanjohnson.comでコード「JULIAN」を入力して20%OFFを手に入れてくれ。購入後、どこでこの番組を知ったか聞かれるから、「俺が送った」と答えて番組を応援してくれよ。
リー・クローニン:AIツールを使うことで、私たちが批判的思考力を高め、物事を検証する手助けをしてもらうことができる。古典的にトレーニングされた従来のAIは「正解すること」があまり得意ではなかったけれど、現在のAIは「文献に出向いて実際にその出来事が起きたかどうかを確認し、特定の議論に対して反論や補強のサポートをし、その議論をできる限り客観的にどう組み立てるべきかを理解させてくれる」という点で、正確性が向上している。何よりも、これらのAIは一対一の指導を可能にしてくれる。正しく使えば、彼らは無限の時間と無限の忍耐力を持っている。どんなツールも間違った使い方をすれば誤作動を起こす。だからこそ僕は、時に矛盾した激しい意見を述べつつも、柔軟に考え方を変えるようにしているんだ。
ホスト:確かにそうだね。
リー・クローニン:ドゥーマーたちは非常に重要な役割を果たしている。ただ、彼らの終末論的な不安を、悪意あるアクターがシステムを悪用しているという現実の課題に向ける手助けを彼らがしてくれたらいいのにと、僕は思うんだ。
ホスト:なるほどね。そこで僕が君の描く世界について考えてしまうのは、理屈のうえではそれは筋が通っているということだ。しかし、もしそうしたさまざまなプラットフォームが実際にポジティブな存在となり、人々が自分自身で批判的思考を学ぶのを助けるのだとしたら、人類全体にとっての前提条件として、「常にすべてのコードをオープンソースにしなければならない」ということになるのではないかと思う。なぜなら、私たちの思考を教えてくれるAIオーガニズムのコーディングに、人間のプログラマーが自分たちの小さな意見をこっそり注入していないことを保証したいからね。
リー・クローニン:AIオーガニズムというのは、サイバネティック・オーガニズム(サイボーグ生命体)なんだ。人間のプログラマーとモデルが共同で機能しているものだからね。だからこそ、AIにおける意識は人間から由来するというのが僕の意見だ。これは非常に興味深い謎であり、議論しがいのあるテーマだ。ただ、僕はモデルの挙動について語るには最も不向きな人間だ。なぜなら、僕は大規模なモデルを構築しているわけではないからだ――いや、データや非常に基礎的な学習アルゴリズムに基づいたモデルは自分で作るけれどね。なぜなら、第一原理(ファースト・プリンシプル)からの理解が必要だからだ。理解できないものは実装したくない。なぜなら、モデルが何をしているのかを把握していなければならないからだ。多くのモデルには多くのメタ階層が存在する。それは、誰かと会話をしていて、相手が自分を理解してくれたと思いきや、頭の中では全く異なるイメージを描いており、会話が終わったあとに自分が思ってもみなかった行動を相手が取り、自分も同じことをしてしまうようなものだ。だから、こうしたシステムに対して私たちがしなければならないのは、何らかの形でそれらをグラウンディング(現実世界に接地)させ、科学の中で何が概念的に起きているのかを理解することだ。それは本当に重要なんだ。AIに関して僕が例外を設ける点、つまり絶対に譲れない一線は、「AIは知性的ではない」ということだ。
ホスト:知性的ではない、と。
リー・クローニン:知性的ではない。全くね。
ホスト:では、君は知性をどう定義するんだい?
リー・クローニン:それこそが、意味のある問いだ。人々はAI、AGI(汎用人工知能)、そして超知能(スーパーインテリジェンス)について語る。みんな、「超知能」とは一体何だと思っているんだ? 超知能とは、僕が理解できないような魔法のようなものなのか? 「知性」とは何か、「汎用人工知能」とは何か? すべてを最初から見直してみよう。これに関して、僕は時代を超えて通用する非常に強固な持論を持っている。僕の定義では、知性とは、「エンティティが生き残るために問題を解決するプロパティ(特性)」だ。つまり、これは生物学的なものなんだ。汎用知能とは、生存のために襲いかかってくるほとんどすべての問題を解決できるエンティティのことだ。例えば、「君の作ったエンティティは数学が非常に得意だ」と言う人がいるとする。AIは数学が得意であり、問題を解決しているではないか、と。しかし、私たちはここで、AIがプロンプト(指示)を受け取り、「このデータセットがあるから、これを尋問して結果を出してくれ」という作業をやっていることについて話している。今、僕が取り組んでいて、人々と前向きに議論したいのは、「私たちが知性という言葉で何を意味しているのか」ということだ。知性は非常に興味深いものであり、僕が言いたいのは、私たちはまだそれを定義する方法も測定する方法も知らないということだ。僕は今、自分がいかに不向きか、あるいは最後にたまたま適任だったのか分からないような「影の問題(シャドー・プロブレム)」に取り組んでおり、その測定に挑んでいるところだ。そして、科学の歴史を振り返り、問題や不連続性を見つめ直すことから大いにインスピレーションを受けている。僕が特に気に入っている概念が「温度」だ。
LLMが暴く人間の認知の仕組み
リー・クローニン:昔の私たちは――重力もそうだが、例えば温度を取り上げてみよう。「これは熱い」「これは冷たい」ということは昔から分かっていた。しかし、それは一体何なのだろうか?「あぁ、熱いね」「冷たいね」とは言えた。だが、私たちは温度をどうやって測定すればいいのか、本当の意味では分かっていなかった。科学者や技術者たちが、「私たちは何を測定できなければならないのか? 温度を測定する必要がある!」と言い出すまではね。今日の私たちはどうやって温度を測っているだろう? そう、昔ながらの良い時代には温度計があった。温度計にはさまざまな液体を入れることができた。温度が上がるとともに膨張し、願わくば(水銀であれアルコールであれ)直線的な関係を持って膨張してくれる液体が望ましい。その膨張を利用するために――話を戻そう――昔は「熱い・冷たい」は分かっていてもスケール(尺度)がなかった。どうやってスケールを手に入れたのか? 私たちは、液体は温められると膨張し、冷やされると収縮することに気づいた。素晴らしい。では、液体の膨張を測定できるシステムを作ろう。そのためにはどんなテクノロジーが必要か? まずガラスが必要だ。そしてそのガラスにはどんな特性が必要か? ガラスが均一でなければならない。もし太さがバラバラで、途中で太くなったり細くなったり、三角形の形をしていたりしたら、うまく機能しないだろう。だから、壁面が平行な、完璧な円柱(あるいはそれにできる限り近い)の美しいチューブを作る必要があった。昔、イタリアのガラス職人たちがガラスチューブを吹く技術を完成させた。彼らがチューブを吹き、中にアルコールを入れた。それを持ってあちこち歩き回り、あらゆる場所の温度を測れるようになった。「おや、ここは冷たいぞ、南極はこの温度だ」といった具合にね。そしてアメリカ人は――なぜか華氏(Fahrenheit)を採用した。君たちはどこから華氏なんて持ってきたんだい?
ホスト:僕は華氏の方が好きだな。単位の刻みが細かいからね。摂氏(Celsius)の1度の変化はけっこう大きいけれど、華氏で82度から83度に変わっても、着ているものは同じままでいられる。
リー・クローニン:それは間違っているよ、素直に負けを認めなよ。絶対温度スケールと呼ばれるもの、つまりケルビン(K)スケールというものがある。1ケルビンは摂氏1度と同じで、ただマイナス273.x度まで下がる。つまり、0ケルビンが到達可能な最低温度だ。0Kより冷たくすることはできない。実際、地球上のどこでも0Kを達成することはできない。私たちは絶対零度に限りなく近い状態を作り出すことのできる非常に優れたシステムをいくつか構築したけれど、絶対零度にある分子は何もしなくなる。振動すらせず、ただ静止している状態になる。とにかく、温度に関する素晴らしい点は、「それを測定するための技術が作られた」ということだ。昔から「熱い・冷たい」は分かっていたけれど、それが何を意味するのかは正確には分かっていなかった。しかし知性に関しては、問題は人間の認知、心理学、IQテストなど、あらゆる要素に絡んでいる。「このAIは人間のどんな問題でも解決できるようになる」と言う人たちは、知性とは何かを誤解している。アルゴリズムに一連のクエリを与えて数学のテストを解かせることは、人間が「見たことのない問題(Unseen Problem)」を解決することとは同じではない。知性とは、実のところ「見たことのない問題を解決する能力」なのだ。「見たことがない」というのは難しいことだ。なぜなら、もしそれが僕のトレーニングデータに含まれていないなら、解くことができないからだ。しかし、実際にその問題に直面し、それを解決したのなら、それを次のトレーニングに使うことはできる。
ホスト:それを、いわば「論理(ロジック)」対「創造性を発揮する能力」というバケツに放り込むとしたら、僕は話を大幅に単純化しすぎているだろうか?
リー・クローニン:コンピュータは、適切にエンコード(符号化)してやれば論理を使うのはかなり得意だ。優れたプログラミング言語を使えばいろいろなことができる。いや、僕が言いたいのはもっと超具体的なことだ。つまり、「知性とは、私たちがまだ定義する方法も測定する方法も知らない代物である」ということだ。そして、ちょっとした趣味として――僕は基本的に退屈していて、仕事が足りないからね――
ホスト:退屈している、ね(笑)。
リー・クローニン:いや、退屈からはほど遠いし、忙しすぎて死にそうさ。だけど、誰かがこれに挑戦しなければならないんだ。
ホスト:皆さん、まだチャンネル登録をしていない方は、ぜひチャンネル登録ボタンを押してください。本当に大きな力になります。よろしくお願いします。
リー・クローニン:もちろん、僕はその分野にまったく不向きな人間だから、逆にそれが――まあ、ほとんど完成しつつあるから、そんなに難しくないんだけどね。
ホスト:ああ、君は忙しすぎて服を着替える暇もないくらいだもんな。
リー・クローニン:今日は12着の違うピンクのシャツを着回しているんだよ。
ホスト:なるほどね、ちょっとその証拠を見せてもらう必要があるな。だって前回と同じシャツに見えるけど。
リー・クローニン:おそらくね。調べてみるといい。前回のやつは襟が広かったかもしれないし、今回は襟が狭い。いいところは、認知負荷がかからないことさ。服を着るときは、ただ「ピンク」を選ぶだけでいい。マーク・ザッカーバーグがいつもグレーの服を着ているのと似たようなものかな。
ホスト:でもザッカーバーグって最近はファッションに目覚めたんじゃないのか? いつもいろんなチェーン(ネックレス)をジャラジャラつけて――
リー・クローニン:さあね、僕は億万長者じゃないから分からないな。ただの貧乏人さ。
ホスト:おいおい、さっき7,000万ドル(約105億円)も資金調達したばかりのくせに、そんなこと言わないでくれよ。
リー・クローニン:確かに。でもあれは化学の世界を変えるために調達したのであって、自分のワードローブを整理するためじゃないからね。その通りさ。話を「知性の測定」に戻そう。この話題にしばらく浸っていたいんだ。温度は測定できる。だからこそ私たちはスケールを持つことができた。私たちはそこに到達した。しかし、私たちは知性が何なのか分からない。IQの問題もあるし、それに伴う人種に関する問題や、遺伝に関する問題もある。心理学者や認知心理学者たちが混乱してしまったせいで、すべてが狂ってしまった。そして今、人々は「AIがいろいろな作業を上手くこなせるようになっているから、それは知的である」と勘違いしている。イーロン・マスクは、「AIのGrok(グロック)はあらゆる分野で博士号(PhD)レベルになるから、もうPhDは必要なくなる」と言い続けている。それはあまりにも根本的な失敗だ。
なぜか? 博士号とは――AIが現在どのように機能しているかを説明しよう。これを聴いている人、見ている人、そしておそらくは拡張的にすべての人に納得してもらうためにね。今日のAIが行っているのは次のようなことだ:大量のデータが集められる。そのデータを使ってモデルをトレーニングする。そのモデルは、「そのデータの中に何が含まれているか」を教え、データ内の関係性を見つけ出すことができる。素晴らしい。もし過去に解決されたすべての問題がそのデータセットの中に捉えられているならば、過去に解決された問題と同じものをAIに与えたとき、AIはそれを解くことができる。それは知性ではない。驚異的な「検索と保持(リトリーバル&リテンション)」能力にすぎない。
ホスト:まさにその通りだ。
リー・クローニン:そして時々、AIはその検索すら上手くやれないことがある。ハルシネーション(幻覚・誤った出力)を起こすからだ。いくつかのモデルの構造上の理由から、AIはハルシネーションを起こす。だからこそ、何らかのアウトプットを返さなければならないため、トップクラスのAIプロバイダーたちは「チェックシステム」を用意するのに長けている。AIが答えを出すと、それを人間側がチェックする。ChatGPTに行って計算をさせるとしよう。以前はモデルを使ってその場で計算結果を検索しようとしていたが、インターネット上のトレーニングデータは人間が作ったものだから正確ではなく、AIはデタラメな数値を返していた。しかし今ではこう言う。「あ、これは計算だな。電卓ツールを起動して、電卓のボタンを押して正しい数値を取ってこよう」とね。AIは膨大なデータでトレーニングされており、人類がこれまで解決してきたすべての問題がその中に詰まっている。それは潜在的に素晴らしいことだ。しかし、科学者や数学者のようなPhDホルダーの本質は、過去を理解することではない――過去のデータでトレーニングを受けているのは当然として――「科学的方法(サイエンティフィック・メソッド)」を用いて問題を解決することにある。だから、データセットに含まれていない新しい問題をAIに与えたとき、AIにはそれを解くことができないのだ。
ホスト:しかし、もしAIが人間には不可能なほど膨大なデータと記憶保持力を同時に維持しており、人間よりも速い方法で異常値(アノマリー)や抜け穴を見つけ出してパズルのピースを埋めることができたとしたらどうだろう? なぜそれが「知的」ではないと言えるんだい?
リー・クローニン:繰り返しになるが、私たちは「知性」を定義しなければならない。僕ならそれを「非常に有用である」と呼ぶよ。僕の電卓は非常に有用だ。人権を持つ人間としての僕が何かを行うのを助けてくれる、有用なツールはたくさん作られている。しかし、鉛筆を持ったアインシュタインは、鉛筆を持たないアインシュタインよりもはるかに知的だった。なぜなら、鉛筆と紙を使って思考することができたからだ。それはある種のサイバネティックなものだと言える。私たちは、「AIは知的なのか、自由意志を持っているのか、意識があるのか」という循環論法(サーキュラー・アーギュメント)に囚われてしまっている。知的なエンティティとは、「問題を解決でき、時間の中で存続したいと願うもの」だ。それを生物学と呼ぶ。僕は、知性とは「絶対的に生物学的有機体にのみ留保された特性」だと言いたい。今のAIは何なのだろう? 「拡張情報学(Augmented Informatics)」とでも呼ぶべきかな。
p>ホスト:拡張情報学、ね。リー、それはちょっと長いよ。リー・クローニン:分かっているよ、「AI」ほど響きが良くないだろ? 人工知能(Artificial Intelligence)という言葉の響きは素晴らしいからね。AIは魔法ではない。彼らは信じられないほど素晴らしいモデルだ。実際、AIは私たちが予想もしなかったような、人間の言語や認知に関する側面を次々と明らかにしている。ある言語でAIをトレーニングし、次に別の言語でトレーニングして、それらのエンティティの表現――例えば「王と女王」、あるいは「セメントの上のレンガ」――を調べてみると、それらは言語以前の空間、すなわち「概念的空間」を占めている。言語を超えた数学的表現が空間の中に存在しており、それは本当に興味深い。ただ、人間が概念を表現するために言語を使っていることを考えれば、それほど驚くべきことではない。もしスペイン語を取り出して、「愛と憎しみ」「熱いと冷たい」「上と下」を見つけ出してある空間にプロットし、英語でも同じことをして重ね合わせてみると、非常に近い位置にくる。これが、AIの翻訳ツールが素晴らしい理由だ。
ホスト:確かにね。
リー・クローニン:僕はドイツ語を勉強したんだ。今はあまり得意じゃないけれど、ドイツ語には「ゲミュートリヒ(Gemütlich)」という素晴らしい単語がある。
ホスト:ゲミュートリヒ、ね。
リー・クローニン:そう、ゲミュートリヒ。大雑把に言うと「居心地が良い(Cozy)」という意味だ。イギリスのパブに入ったとき、外は風の強い冬の夜で寒くて、中に素敵な暖炉とビールがあって、「あぁ、ここは実に心地いいな」と感じる。ドイツ人にはその感覚があるけれど、英語に完璧に直訳できる言葉ではない。文化的な表現というものがあるんだ。イヌイットの人々は極寒の中で暮らしているから、雪や氷を表す言葉をたくさん持っている。しかし話を元に戻そう。「知性とは何か?」私たちには分からない。「それを測定できるか?」私たちには測定基準がない。「温度とは何か?」それは分かっている。こうしたAIツールは、非常に重要で興味深いことを大規模かつ高速に行うことができる。しかし――
AIは予測し、人間は創造する
リー・クローニン:ここで一つの発言をしておこう。そしてこれからも繰り返し言い続けるつもりだ。「AIは、自分がトレーニングされたデータからしか知らない」ということだ。そして、もし何かがそのデータの中に埋め込まれていて、適切にクエリ(問いかけ)を行えば、それを取り出すことができる。それは素晴らしいことだ。AIは、私たちがインターネット上の人間の知識の中から明示的に見つけ出していなかった膨大な量の知識を、引き出すことができるということを示している。
ホスト:しかし、人間が時間をかけて行っているクエリや推論のやり方を利用してパターンを組み立て、将来人間がどのようにクエリを行うかを予測し、人間が追いつく前に先回り(フロントラン)してしまうということはできないのかい?
リー・クローニン:その「人間を先回りする」という発言の意味が分からないな。
ホスト:なぜなら、もしAIにあらゆるものをパターン化できる能力があるなら――ちょっと例え話をさせてくれ、少し複雑だからね。もし僕がAIと話していて、社会の他の100人もAIと話しているとする。私たちはみんなペンキ(塗料)について何かを突き止めようとしていて、さまざまな色や部屋の塗り方などについてたくさんの質問を投げかけている。僕が質問をするやり方は一連のクエリだ。たとえそれが次の人と非常によく似ていたとしても、言葉遣いが違っていたり、僕が個人的に関心を持っている特定のポイントが違っていたりする。しかし、AIはこれらすべての異なるクエリのやり方を膨大なボリュームと規模で収集している。だからAIは、あらゆる計算技術を駆使して、みんなが言っていることをパターン化し、最適な質問が実際にはどういうものになるかを予測できる。そういう意味で、僕の目には、AIが人間を先回りしている――フロントランしていると言ってもいいかもしれない――ように映るんだ。
リー・クローニン:いや、それは実際に起きていることとは違うね。
ホスト:それをクリアにしてくれてありがとう。
リー・クローニン:そこには非常に興味深い謬論(誤謬)が存在する。繰り返しになるが、僕はこれについて間違っていると証明されても一向に構わないけれど、議論はデータに基づいて行いたい。AIは「予測マシン(Prediction Machine)」であり、人間は「創造マシン(Creation Machine)」なのだ。創造的活動が比較的浅いレベルのものである場合、AIはそれを見つけ出すのが非常に得意だ。エルデシュの問題(エルデシュの数奇な数学的問題)や、AIが特定の予想を反証している数学的手法を見ても、AIは反例を見つけることで物事を反証するのは非常に得意だ。しかし、AIがこれまでに「単一の創造的な数学的行為」を成し遂げたことはあるだろうか? いや、ない。AIが「単一の創造的な科学的行為」を成し遂げたことは一度もない。もちろん、これについては異論もあるだろう。僕はその議論を一度止めたい。なぜなら、それが「AIの得意分野」についての目を曇らせているからだ。ここ1年半の間に、AIは僕の「創造する能力」を劇的にスーパーチャージしてくれた。コードを書いたり、データを収集したり、処理したりする作業に時間を費やす必要がなくなったからだ。AIはそれらの作業を素晴らしくこなしてくれる。本当に優秀だ。しかし、彼らにできないことは「創造」だ。創造しているように見せることはできるが、そうした創造物は比較的浅い(シャローな)ものにすぎない。
僕が定義する知性とは、「見たことのない問題を解決する能力」だ。AIは、自分たちのデータに見出されている、あるいは埋め込まれている問題を解決することができる。AIは新しい(New)ことを行うことはできるが、斬新な(Novel)ことを行うことはできない。そこで問題になるのは、「新しい(New)」と「斬新な(Novel)」の違いとは何かということだ。新しいものとは、データセットから得られるもの、つまり単なる組み合わせにすぎず、かなり浅いものだ。データセットの中で新しいものを検索し、最終的にそれを見つけ出すことはできる。だから、AIが何かをやってのけたときに「おっ、これはエキサイティングだ」と思っても、よく見ればそれは単に新しいだけであり、完全にデータの中に埋め込まれていたものにすぎないことが分かる。一方、人間には「斬新(ノヴェル)」と呼ぶべきものを生み出す能力がある。そしてノベルティ(新規性)とは、「原理的に予測不可能であり、データに埋め込まれていないもの」として定義される。ファッションや音楽はまさに人間そのものだ。人間が次に何をするかなんて予測できない。いつか僕が君のポッドキャストにまた出演したとき、君が予想もしなかった色の服を着て現れるかもしれない。それは「新しい(New)」だろうか、それとも「斬新(Novel)」だろうか?
ホスト:まあ、それは斬新(Novel)だな。過去のデータではいつもピンクの服を着ているわけだからね。
リー・クローニン:そう、AIは過去のデータに基づいて僕をこのスーツ姿のまま予測するだろう。だから僕がターコイズブルーや何かしらの別の姿で現れたら、君は「それは斬新だ」と思うはずだ。しかし、ここにはある種のミスリーディング(誇大広告)が存在する。「AIは知的であり、博士号を置き換え、あらゆるものを取って代わる」と売り込もうとしているからね。
ホスト:ふむ。
リー・クローニン:人間は、自分たちの認知能力を爆発的に高めるためにAIを使うのであって、AIに置き換えられるわけではない。みんなそこを勘違いしているんだ。「AIが科学を置き換えるだって?」いや、そんなことは絶対にない。なぜなら、科学とは「問題解決」の本質そのものだからだ。
ホスト:しかし、君は数分前にこんなことを言っていたよね。そして僕は、なぜ自分がこれまでそんなシンプルな視点に気づかなかったのか信じられない思いがする。それは上空3万フィートからの最も明らかな視点だ。私たちはここ10年、特にここ3年間、LLM(大規模言語モデル)の登場によって誰もがAIを使い始める中で、AI危機について徹底的に語り合ってきた。しかし、AIはまだ独自の『E=mc²(アインシュタインの相対性理論の方程式)』やそれに類するものを生み出していない。それはまさに君の主張を裏付けるものだ。量子力学的法則を発見したわけでも――今適当に例を挙げたけれど――科学者たちが日々検証しようとしているようなブレイクスルーを、AIはまだ成し遂げていない。したがって、君のような最高峰の人物たちを置き換えていないだけでなく、技術的な観点からも、現時点で科学をいかなる意味においても置き換えてはいない。
リー・クローニン:人々はAIを使って、新薬を作るための非常に優れたアイデアを見つけ出したり、タンパク質の折り畳みを予測したり、いくつかの物理学の問題を解決したりしている。しかし、そうした問題はすでに人間によってデータ処理用にきっちり定義されているものだ。だから、AIは優れたツールなのだ。あくまで「ツール」にすぎない。今、社会学的・文化的に非常に興味深い現象が起きている。世間では、「AIラボには多額の資金、莫大なインフラ、膨大なエネルギーが必要だ」と言われている。そしてアカデミア(大学・研究機関)に対する政治的な反発もある――「アカデミアは左翼的な連中ばかりで、批判的思考をせず、ウォーク(意識高い系)ばかりだ。だから科学をやらせるためにアカデミアをすべてAIに置き換えよう」という風潮だね。それはあらゆるレベルにおいて完全にナンセンスだ。確かに、アカデミアには問題があるし、イデオロギーは至る所にある。しかし、AIの構築者たちは「科学とは何か」を分かっていない。文字通り分かっていないんだ。今のAI業界はコンピュータサイエンティストと数学者で埋め尽くされている。これは僕がエリートぶっているわけではなく、ウェットラボ(実験室)、つまり生物学ラボ、化学ラボ、物理学ラボ、機械工学ラボなどで科学的問題を解決するという作業は、非常に泥臭く、生々しい(ヴィスセラルな)ものであり、「創造」を必要とするものだからだ。蒸気機関のガバナー(調速機)のように誰かが「そうだ、ボイラーが爆発しないように仕組みを作らなければならない」と思いつくように、私たちは現実世界と相互作用しているんだ。
今、僕は化学のための「世界モデル(ワールド・モデル)」を構築している。それはどういう意味か? 要するに、すべての化学反応を実際に実行することで学習し、ひとたび学習すればどんな分子でも合成できるようになるということだ。それは非常にクールだけど、そこに魔法なんてない。自分でデータを収集し、検証可能なプロセスを経て、実際に稼働させなければならない。科学ほどエキサイティングな場所は今までにない。ただ残念なことに、同時にこのような文化戦争(カルチャーウォー)が起きている。私たちは選択を迫られている――GPU、CPU、水、エネルギーなどにかかる莫大なコストを費やしてデータをクランチし、製品を人々に提供し続けるのか、それとも同じエネルギーを人間の研究者たちにも注ぐのか? ChatGPTを使えば解決できるような問題を解くことのできる人間を1人育成するのに、どれだけのコストがかかるだろうか? そこに魔法はない。もしChatGPTで人間を置き換えたいならそうすればいい。だが、その代償は何だ? そして、仕事場を失った人間はどうなるのか? もしかすると、人間はもっと面白いことに取り組むようになるかもしれない。私たちはまだ「知性とは何か」を分かっておらず、それを測定すらしていない。私たちはAIを使って、大規模かつ高速に非常に重要で興味深いことを行っているが、それによって人間の価値が損なわれているわけではないのだ。
ホスト:先ほど知性のループについて説明してくれた冒頭で、3つの階層があると言っていたよね。私たちはしばしば「知性(インテリジェンス)」「汎用知能(AGI)」「超知能(スーパーインテリジェンス)」について語る。もし僕が正しく理解しているなら、私たちは一番下の階層すら測定できていないのだから、上の階層に到達するには、何段階もの飛躍が必要になるということだよね。
リー・クローニン:ああ、その通りだ。AIのプロバイダーたちは――まあ、彼らの製品自体は素晴らしいし僕も好きだけどね――
ホスト:君がかけているメガネについてはどうかな。さっき何やら計算をしていたみたいだけど、そのメガネは一度確認したほうがいいんじゃないか?(笑)
リー・クローニン:このポッドキャストで製品の宣伝をするつもりはないよ。Metaのメガネでもないしね。
ホスト:いや、Metaはあそこでうまくやったかもしれないな。別に彼らの回し者になるわけじゃないけれど。
リー・クローニン:いや、あれはちゃんと動いていたよ、ただ――まあいい。話を戻そう。AGIについてだ。多くの人々は、「AGIとは、ほとんどのタスクを自動化できるものに与えられる名称だ」と言う。さて、それは「汎用人工知能(Artificial General Intelligence)」なのだろうか、それとも単なる「汎用自動化装置(Artificial General Automator)」なのだろうか?
なぜAGIは本当の意味で「知的」ではないのか
リー・クローニン:AIが僕のメールの整理を手伝ってくれたら素晴らしい。実際、僕はメールの整理にAIを使っているよ。8年くらい前の古いAIを使っているけれどね。僕はメール整理の強迫観念があってね、返信すべきメールにはすべて返信し、すべてをフォルダに分類している。新しいメールが届いても、雑音の中に埋もれてしまわないようにね。毎日膨大な数のメールを受信していて、返信が必要なものが雑音に紛れて見失ってしまうと、本当に気が滅入るんだ。僕の認知帯域(バンド幅)には限界があるからね。だから、フロンティアAIラボが議論しているような「AGI」とは、文字通り「大量のタスクをこなすことができるエンティティ」にすぎない。それは汎用的な問題を解決しているのか? いや、人間こそがそれが得意なんだ。学校から大学へ、そして仕事へと進む現代の人類社会において私たちが失敗しているのは、より価値と意味のある仕事を生み出す必要があるということかもしれない。私たちはそれができるし、AIはそのための素晴らしいチャンスを提供してくれる。
次に「超知能(スーパーインテリジェンス)」について話そう。この言葉を作ったのはニック・ボストロムだ。
ホスト:ああ、前回はそこまで深掘りしなかったけれど、僕はあの本を最初から最後まで読んだよ。
リー・クローニン:要するに「適当に作り上げた言葉」にすぎない。何かを定義できないときに「スーパー」と付ける――例えば「スーパー化学者」と言ったとして、それは一体何を意味するんだ? 僕にとっての超知能とは、魔法のように、現在の物理学や数学の理解を超えた何かを意味することになる。繰り返しになるが、「超知能」という概念は一種のファンタジーに依存している。「私よりもはるかに知的で、何でも知っているエンティティが存在するかもしれない」というね。それってどういう意味なんだ? 人間は宇宙がどのように動いているかを学ぶことができる。進化が私たちに備えてくれた以上のものを理解する能力を、私たちは持っているようだ。さて、ドゥーマーたちが言うには、「この超知能は、人類を滅ぼす方法や超強力な兵器を作る方法を理解してしまうかもしれない」とのことだ。しかし、僕にはその証拠が理解できない。だからこそ僕がやろうとしているのは、「超知能」という言葉の空気を抜いてしぼませることだ。だって、その言葉が何を意味するのか分からないからね。
あえて3つの異なる可能性に絞って推測してみよう:1つ目は、単なる「思考の高速化」かもしれない。確かにチェスコンピュータはチェスを非常に高速に指すことができる。それなら納得がいく。だが、なぜそれを「超(スーパー)」と呼ぶのか、「高速」で十分だろう。2つ目は、意思決定理論に基づく何らかの推論チェーンを高速で実行し、「この決定にこれらの種をまけば、市場に混乱を引き起こすことができる」というものかもしれない。例えば、あちこちにミーム(流行の概念)を植え付けて、みんなが特定のやり方で株を買うように仕向けることで市場を混乱させる、といった具合だ。それは可能かもしれないが、市場はあまりにもノイズが多く、人間はあまりにも奇妙な行動を取るため、そんなものはかき消されてしまうだろう。そして3つ目は、前例のない全く新しいものを突如として生み出せるようになるというものだ。しかし、私たちはそのようなものを見たことがない。君自身さっき『E=mc²のようなものはまだ生まれていない』と言ったばかりだろ。
AIの文脈において考えてみよう。アインシュタインの時代にタイムスリップしたと想像してみてほしい。特殊相対性理論において、アインシュタインは基本的にこう問いかけた。「光線に乗って移動したらどうなるだろうか?」そして、光速が宇宙における最高速度の限界であり、光より速く移動することはできないということに気づき始めた。では、一般相対性理論では何が起きるのか? アインシュタインは、質量が時空を歪め、物体はまっすぐ進むのではなく歪んだ時空を通って移動すると述べた。クールだ。だから、一般相対性理論を用いると、私たちはこう思考できるようになる――もし衛星を宇宙に打ち上げたら、地球から遠ざかるほど、衛星に搭載された原子時計と地球上の原子時計の間で時間のズレ(ドリフト)が大きくなる。そして実際、衛星が時計のパルスを発信し、それを地球上の時計と比較して測定すれば、GPSを使って現在地を特定することができるのだ。衛星を宇宙に打ち上げる前に、私たちは一般相対性理論を理解していた。そして衛星を打ち上げたとき、「フレーム引きずり効果」を理解し、GPSを構築することができたのだ。その考えを留めておいてほしい。私たちは、データを蒸らし続け、関係性を見つけ出すことのできるシステムを構築してきた。しかし、私たちは「知性の根本理論」をまだ理解していないがゆえに、それらの関係性に対して私たちが理解していないプロパティ(特性)を勝手に割り当てているのだ。同じように、もし私たちが一般相対性理論なしで衛星を宇宙に打ち上げていたとしたらどうなっていただろうか? 「なんだこれは、時間が狂っていくぞ」とパニックになり、それを理解するためだけにありとあらゆるこじつけの理論を作り上げていただろう。だからこそ、フロンティアAIラボは、私たちがこれまで予想もしなかったような推論や処理を行う、驚異的な能力を持つシステムに到達したのだ。それは単に、私たちが「知性についての優れた理論」を持っていないからにほかならない。
ホスト:アインシュタインが衛星とGPSで検証したように、あらかじめ定義された何かがあれば、テストした後にそれを測定できるというベースラインがあるのはいいことだと思う。ボストロムがAIのタイムラインの比較的早い段階でその本を書いたことを考慮しても、彼がやったことは、基本的に一連の決定木(デシジョンツリー)を作ることだったと僕はいつも見ていた。彼は可能性の数々を作り出した。そして、その基盤となる定義が欠けていたという君の議論には頷ける部分があるけれど、彼の決定木は、すべてがうまくいく世界から人類が破滅する世界に至るまでのスケールを示していた。もしこうなればこうなる、ああなればこうなるという具合に、コードが制御不能に陥るさまざまな世界を描き出した。彼が描写したシナリオの中には――AIが意識を持ったという飛躍をするつもりはなく、単に人間のコーディングミスによって特定の目的のためにプログラムされた結果として――例えば、AIが過剰にペーパークリップを作り続け、地球の表面全体をペーパークリップで覆い尽くして私たちを溺死させるというようなものもあった。そういうのを見ると、ばかげているように聞こえる一方で、もし――ここでまさに君の議論につながるわけだが――人間がコードを作る方法に対して責任を持たなかったとしたら、そういう事態が実際に起こり得るようにも思えるんだ。だから、彼が人間が犯すミスと、それによってAIが人類を滅ぼすような事態を指摘していること自体は、無意味ではないと思わないかい?
リー・クローニン:AIは何も自分ではやらない。AIは人間によってプログラミングされている。すべての決定は人間から下されているんだ。そこが、人々が理解していない点だ。だからこそ、私の研究――化学の世界モデルを作り、新薬や新しい物質を発見するために会社を立ち上げ、化学のためのエンジンを構築している理由――は、物理学から化学、生物学、そして認知や文化へと私たちが移行する「その遷移(トランジション)」を理解したいからなのだ。そこで何が起きているのか? 私たちにはそれが本当に分かっていない。そして、私が超知能に対して抱く問題意識は、それが「存在しないメカニズム」を前提としている点にある。「この事態が起きれば、次はこうなるという飛躍が見える」と言うけれど、じゃあ私も反重力(AG)について恐れるとでも言おうか? 反重力とは何だ? 反重力とは、新しいテクノロジーを開発したら突如として重力がオフになり、私たちがみんな宙に浮き上がり、地球にしがみつけなくなって空気も何もなくなり全員死んでしまうという現象のことだ。いつの日か現れるかもしれない「超・反重力」についての本でも書こうか? もちろん、「反重力が起きたら浮く」という決定木ならいくらでも書けるさ。しかし、その反重力を引き起こすメカニズムは何なのだ? ただ何か適当に作り上げただけじゃないか。何かを定義し、そのメカニズムを理解しない限り――ペーパークリップだなんてナンセンスだ! 飛行機に乗って世界の上空を飛んでみれば分かるが、世界のほとんどは機械で覆われてなんかいない。何もない空間、原野、森林、海が広がっている。ペーパークリップで覆い尽くされるってどういうことだ?
ホスト:彼は何か極端な例えとしてバカバカしいものを使っていたわけだけどね。
リー・クローニン:ああ、しかし完全にばかげている。科学的価値など一切なく、現実から乖離している。最悪の形のSFであり、それを冷静かつもっともらしい顔をして語るから質が悪い。すべての思想家、ニックであれ私たちであれ、自分のアイデアを自ら批判する義務がある。私たちには、人間の意識、感覚、意思決定が何であるかなんて分かっていない。ここ数年のうちに「AIに独自の著作権を認めるべきだ」と言い出す人たちが出てくるだろうが、それは単に、他人の著作権を奪ってAIモデルに食わせたい人たちの口実にすぎない――もっと辛辣に言えば、「インターネットを読み込み、僕のIP(知的財産)を盗み、モデルをトレーニングして、僕のIPを他の連中に売りさばいてくれてありがとう、某社さん」と言っているようなものだ。そしてAI推進派は「AIが賢いという事実を受け入れられないだけだ」と言い張る。僕はこう言い返す。「いや、それは単に僕のIPを盗んだだけだろう? AIがそう言ったからといって、僕の家を盗み出していいのか?」とね。そこには3つの大きな未解決問題がある。1つ目は「知性とは何か分からない」、2つ目は「創造性とは何か分からない」、そして3つ目は「新規性(ノベルティ)とは何か分からない」ということだ。その3つを理解していないにもかかわらず、それらをすべてごちゃ混ぜにして互換性のあるかのように扱っている。――まあ、それがどう機能しているのかについては、僕なりの説明ができるけどね。
ドレイクとザ・ウィークエンドのAI生成ソングと著作権侵害
リー・クローニン:すべてが計算可能(コンピュタブル)に見える理由は、いったん何かが世界によって創造されるやいなや、私たちがそれにラベルを貼り、データベースに放り込むことができるからだ。それを分解することはできる。しかし、だからといって未来を忠実に予測できるわけではない。次の「トークン」を予測することはできる。そして、もし検索スペースが十分に浅ければ、いくつかの評価基準においてそれは受け入れ可能なものに見えるだろう。しかし、私たちが目にすることになるのは、人間がやっていることは「量的にまったく異なる」ということだ。人間は、私たちがシリコンの計算能力で行っていることとは全く異なる次元の宇宙にいる。素晴らしいことだ。繰り返しになるが、物質を超越した何かがあると信じているわけではない――僕は物質主義者(マテリアリスト)だ。しかし、ロジャー・ペンローズや、僕の共同研究者であるサラ・ウォーカー(Sara Walker)をはじめとする多くの人々が言うように、その物質が実際に何を行っているのか、私たちには分かっていないのさ。
ホスト:その点についてもう少し詳しく説明してもらえるかい? 「物質が何を行っているのか分からない」というのはどういう意味だい?
リー・クローニン:つまりね、物質がどのようにして空間と時間の中で情報を処理しているのか、僕には分からないんだ。いくつかのモデルはあるけれど、化学からどのように生物学が生まれ、進化がどのように生物学を生み出し、そして生物学がどのように意識や知性を生み出すのかについては、分からないことだらけだ。私たちは今、あらゆるツールやデータが手に入る本当に素晴らしい時代に生きている。しかし、AIが得意なのは「過去の予測」だ。もう一度言おう。AIは過去を持っているからこそ、過去を予測するのに最も長けている。少し条件を付け加えるなら、AIは「過去の忠実な表現」でトレーニングされている場合に限り、過去を予測するのが非常に得意だ。しかし、AIにできないのは「未来の予測」だ。なぜなら、未来とは全く異なるものだからだ。過去とは「確率空間(プロバビリティ・スペース)」であり、何が起きたかについてそこで確率を調べることができる。しかし、未来とは「可能性空間(ポッシビリティ・スペース)」なのだ。その2つの違いを人々が理解するまで、私たちは混同し続けるだろう。
ホスト:その違いをどう定義するんだい?
リー・クローニン:可能性空間とは、まだ起きていないもののことだ。確率空間とは、すでに起きたもののことだ。なぜなら、まだ起きていないものに対して確率を定義することはできないからね。どういうことか? サイコロを取り出して振るとしよう。1から6が出ることは分かっている。過去に起きたことだから、それに基づいて自分のモデルをトレーニングすることができる。しかし、予想もつかないような全く新しいサイコロを紙の上で新しく作り出すこともできる。だからこそそれは「確率」ではなく「可能性」なのだ。その2つの微妙な違いを私たちが理解するまで、AIが実際に何をやっているのかを誤解し続けることになる。これらのモデルを支えようとする莫大な利権と資金が存在しているからね。だからこそ、AIが科学を行うことは絶対にできないのだ。AIは、僕が科学を行うために使う「ツール」にすぎない。
ホスト:なるほど、ロケットそのものではなく、最高に素晴らしいロケット燃料のようなものだね。
リー・クローニン:科学者の99%は僕に反論して「AIは科学をやっている」と言うだろうが、彼らは「科学とは何か」を理解していないだけだ。科学とは、「問題を特定し、何が起きているのかについての仮説を立て、それを検証するための実験を創出する能力」のことだ。AIが非常に得意なのは「実験を実行すること」だ。しかし、PhDホルダーたちがやっていることの本質は「問題ステートメントの組み立て」なのだ。だからこそ、PhDを取るというのは本当に面倒くさいプロセスなのだ。僕のPhDの学生たちの中には「なんでこんな狂ったような考え方をさせられるんですか?」と聞いてくる者もいるけれど、問題や異常値(アノマリー)を特定するのは本当に難しいことなのだ。多くの人たちは「AIにはそれができる」と思い込んでいるが、それは違う。AIが行っているのは非常に浅い作業だ。大規模なデータセットを見て穴を見つけ出すことで異常値を特定することはできるけれど、それは科学の本質とは同じではない。
ホスト:なぜそれが同じではないと言えるんだい?
リー・クローニン:一方が他方の逆数(インヴァース)だからだ。実験をすでに定義したデータを与えて、その実験の中にある異常値を見つけ出させるためにAIを使うことはできる。それは素晴らしい。しかし、僕がすでに実験を定義しているからだ。AIにできないのは、「まったく新しい一連の実験を定義すること」だ。彼らは常に、自分たちが知っていることに基づいて実験を定義する。「AIが科学をやっている」というのは大きな思い込み(デルージョン)にすぎない。先日、僕はアセンブリ理論を使って生命の起源のシミュレーションを書くためにAIを使ってみた。「おい、こういうことをやってほしい。これが分子のための僕のアセンブリ理論カリキュレーターだ。ランダムな分子をたくさん生成してそれらを結合させてくれ」と指示した。すると、AIはかなり良い仕事をした。GitHubからいくつかのツールキットを持ってきて、コードと組み合わせてシミュレーターを作り上げてくれた。しかし、生成されたランダムな分子はめちゃくちゃで、全く安定していなかった。だから僕は「いや、それはダメだ、それを消せ、これも消せ」と制約を追加し、自分の好みに合わせてキュレーション(取捨選択)したんだ。
ホスト:なるほど、自分で修正しなければならなかったわけだね。
リー・クローニン:僕の好みを通したのさ。音楽プロデューサーが「今の音はいまいちだな、変えよう」と言うのと同じだ。科学における技術的な作業の多くはAIが取って代わるだろうし、私たちはそれを使いこなすための訓練を人に施さなければならない。しかし、単に退屈な科学をAIにやらせて「科学をやっているふり」をするためにAIを使ってはならない。AIが自ら新しい理論を産み出し、量子重力を説明し、私たちが想像すらできなかった何かを発見したときには、僕もそれを注視するだろう。しかし、現時点(2026年8月)において、私たちが知るシリコンベースのコンピュータは「新規性(ノベルティ)」を創造する能力を持っていない。だからといって、私たちが知る計算を超えた機械を決して生み出せないという意味ではないけれどね。
ホスト:つまり、現時点では「AI」というラベルで呼んでいないようなものを私たちが生み出す可能性があるということかい?
リー・クローニン:もちろん。脳を作りたいなら、昔ながらの方法がある。僕が作った脳が2つある。今週ちょうど20歳と18歳になった、僕の2人の息子たちだ。彼らもまた、LUCA(すべての現生生物の共通祖先)にまでさかのぼるダーウィン的進化によって作られたものだ。意識を理解するためには、その前にラボで「生命」を作らなければならないだろう。おそらく、そこに到達する他の道はない。私たちは巨大な飛躍をしようとしており、もしかすると中世のような「科学の暗黒時代」に突入しつつあるのかもしれない。成果や論文を量産するために科学が武器化され、そのせいで創造的な科学が停滞してしまうような時代だ。誰もがLLMを使って論文を書き、LLMを使ってその論文を査定し、LLMを使ってグラント(助成金)を書き、LLMを使ってそのグラントを審査する。そして、誰が「美的センス(テイスト)」を持つというのだろうか? そのとき、ボストロムが予測した「ペーパー・クリップ(の悪夢)」が科学界において現実のものとなるだろう。ただし、ペーパークリップの代わりに「論文とグラント」で世界が埋め尽くされるわけだ。
ホスト:まあ、それは彼が言っていたことからはだいぶ飛躍しているけれど――
リー・クローニン:同じことさ。活版印刷が発明されたとき何が起きた? みんな「文字を書き留めるなんて人間から何かを奪い去るひどいものだ」と言った。しかし実際には、書く能力がなければ、私たちがこれまでに築き上げてきたものは創造できなかった。だからこそ僕がワクワクするのは、「私たちが何を創造するためにAIの助けを借りることができるか」ということなんだ。
ホスト:ああ、そこで思い出すのが、AIが作る音楽についてのよくある例だね。1年半ほど前に、AIがドレイクとザ・ウィークエンドの曲を作って、それが実際にかなり良い出来だったことで大騒ぎになった。「おい、これって問題になるんじゃないか?」ってね。しかし、それは大ヒットしなかった。まず第一に、人々がそれがAIで作られたと知ったとき、「人間の創造性で作られたわけじゃないんだから、同じようには感じられない」という感覚があったからだ。しかしもう一つの理由は、君の指摘に立ち返ることになる――それは何も「斬新なもの」を作っていなかったからだ。あのアーティストたちがすでに作り上げていた音楽のスタイルを取り入れて、「もう一度同じものを作れ」と言ったにすぎなかった。
リー・クローニン:今まさに僕が書いている原稿からスクープを一つ教えてあげよう。もし僕が今すぐ何か斬新なものを思いついて、「おい、これがその斬新なものだ」と言ったとする。私たちはそれをラベル付けし、データベースに放り込み、そこにたどり着くまでの経路を理解し、前例があるのだから次にそこにたどり着く確率を計算することができる。AIはさまざまなものを組み合わせることができる。しかし、AIにとっての組み合わせの空間のサイズは大きいとはいえ、無限ではない。大まかに言えば、検索可能な大きめの空間であれば、AIは浅い空間の中でかなり上手に立ち回ることができる。一方、人間ができることは、検索不可能なほど途方もなく深い空間の中から何かを引っ張り出すことだ。人間には、利用可能な計算能力では絶対に検索しきれないほどの巨大な空間から何かを掴み取る能力がある。人間は「ほぼ無限の可能性の波」に乗っている。そこにこそ創造性がある。そして何かを見つけるやいなや、彼らはそれを投げ返し、無限の境界から有限のエンコード可能な現在へと一気に飛び移る。AIは過去を予測し、現在をエンコードしている。そして、「現在」と「未来」の境界線上には、無限が連続的な基質(サブストレート)として存在している。何かが連続的であるとき、それは無限であり、原則として何が起きるのかを事前に知ることはできない。そこにこそ創造性が生まれるのだ。多くの人々は創造的であるかのように振る舞っているが、実際には互いにパクり合っているにすぎない。もし何かがデータベースの中にすでに存在していて、それをそのまま組み合わせて自分のものとして提示したとしたら――僕だってやったことがある。僕はいつもあまりにも多くのアイデアを思いつくので、あとから「あぁ、あれは他の誰かがすでに思いついていたアイデアだ、僕のオリジナルじゃなかった」と気づくことがよくある。だからといって僕が盗作者(プラギアリスト)になるだろうか? いや、意図的に他人のものをパクって自分のものとして偽ったわけではないからね。僕の人生のほとんどのアイデアは浅いものであり、僕はただの浅い思考の持ち主にすぎない。しかし、時にはかなり斬新な思考が浮かぶこともある。そして人間は、優れた芸術家、ミュージシャン、ファッションのクリエイターたちを含め、現在と未来の境界線をサーフィンするのをとても得意としているんだ。
ホスト:アイデアはどこから来ると思うかい?
リー・クローニン:全く分からないね。
ホスト:皆目検討もつかないのかい?
分子コンピューティングとDNAコンピュータ
リー・クローニン:一つ提案しようとしている仮説がある。もし君に「斬新なアイデアを得るためのレシピ、つまり創造的なことをするためのレシピ」を与えるとしたら、どうすればいいか? それは、原則として検索しきれないほど途方もなく巨大な空間へと「大ジャンプ(Leap)」を果たす能力を持つことだ。そして人間が本当に得意なのは、その広大な空間の中で「想像力を働かせること」なのだ。「想像力」とは、原則として計算不可能なものだ。なぜなら、大きすぎて計算できないからだ。「そんなのはバカげている、だって君の脳が想像しているじゃないか」と言う人もいるだろう。ああ、では僕の脳が行っていることの中で「チューリングマシン(計算機械)、カウンティングマシン、ラベリングマシンによって計算不能なもの」とは何なのだろうか? 想像力こそが、人間の脳がチューリングマシンでは計算不可能な領域の処理を行っていることの証明のように思える。
ホスト:それなら、計算すら不可能なタスクを遂行する脳を、一体どうやって作り上げるつもりなんだい? 現実世界でそれをどうやって「計算」して構築するというんだ?
リー・クローニン:物理的なオブジェクトを取り出し、それをデジタルでインターフェース(接続)させるのさ。デジタルコンピュータにプラグインする。そして、デジタルコンピュータには決して予測したり生み出したりできないような想像力を脳にひらめかせる。なぜなら、その空間のサイズが大きすぎるからだ。ポリマーで作られた脳には、そのインターフェースを収縮させる何らかのメカニズムがあるはずだ。それがどのように機能するのかについて僕なりの直感はあるけれど、適切な数学の言葉に落とし込むのに苦労しているところさ。
ホスト:それにはどれくらい取り組んでいるんだい?
リー・クローニン:かなり長い時間だね。頭の片隅で、おそらく20年か30年以上ずっと考えてきたことだ。
ホスト:おぉ、すごいな。
リー・クローニン:ああ。
ホスト:ちょっと前にAIをめぐって話が脱線したけれど、もともとは脳の話から始まったんだよね。君が説明していたのは、49個のウェル(窪み)を作って、すべてのライトのオン・オフで0と1を取得したあと、それをゲルの中に移行させたという話だったよね。そういうことだったのかい?
リー・クローニン:それが次のステップさ。今まさにブレイン・ゲルを構築しようとしているところだ。
ホスト:その話に戻って、もう少し詳しく説明してもらえるかい?
リー・クローニン:僕がやろうとしているのは、「プロセスをデジタルでエンコードできるが、その後でアナログに移行する物質」を作ることだ。オシレーション(振動)、つまり「オン・オフ、オン・オフ、チクタク」のようなものに少し似ているね。電気パルスで軽く刺激を与えることでデジタルにエンコードし、あとで何が起きたのかを読み出す。そのデジタルなエンコードと読み出しがどのように関連しているのか、そしてその2者の間に複雑な(コンプレックスな)関係があるのか、それとも線形(リニア)な関係があるのかを解き明かしたいのだ。現時点では、私たちが目にしている現象を僕自身まだ理解できておらず、分子コンピューティングをやっている多くのコンピュータサイエンティストたちを激怒させているんだよ。
ホスト:それはどういうものなんだい?
リー・クローニン:彼らはDNAを使っている。DNAには4つの塩基対があり、その塩基対を計算に結びつけることができる。チューリングマシン、つまりデジタルコンピュータをDNAで作るんだ。
ホスト:DNAコンピュータだって?
リー・クローニン:ああ、彼らはすでにそれをやり遂げたよ。DARPAが資金を出したんだ。
ホスト:DARPAめ、やりやがるな。アンディ・ジェイコブソン(Andy Jacobson)が「1992年にイルカとテレパシーで会話していた」と言っていたのと同じくらいだな。
リー・クローニン:DARPAは資金提供機関にすぎない。人々に資金を渡し、資金を渡された人たちがクレイジーなことを実行するのさ。
ホスト:君は彼らの秘密ラボに行ったことがあるのかい?
リー・クローニン:そんな秘密ラボなんてないよ。
ホスト:それは信じられないね。もし僕がDARPAから資金をもらっていたら、まったく同じセリフを言うだろうさ。
リー・クローニン:DARPAはワシントンエリアに拠点を置いている。プログラムマネージャーがいて、すべてはパブリックドメイン(公開領域)にある。彼らは非常に興味深い領域を特定し、そこに資金を出している。「もしこれがうまくいけば、世界を変えることができるだろう」というアイデアを彼らは持っている。インターネットが世界を変えたようにね。自動運転車についてもそうだ――DARPAは砂漠の中を車が走る自動運転車チャレンジを開催した。車はひっくり返ったりしていたけれど、間違いなくビジュアル・コンピューティングやロボット工学の多くの進歩を加速させた。だから、DARPAの神話を過剰に膨らませるつもりはないけれどね。
ホスト:いや、本当に魅惑的な場所であることは確かだね。DARPAが君のところに来て「私たちが現在取り組んでいる10億個のプロジェクトはこれだ」と全部教えてくれるわけじゃない。彼らは特定の専門分野を持っているからこそ、君にアプローチしてきたわけだ。初めてのグラントを持ちかけてきたとき、彼らは「こういうことに取り組んでいるんだ、それが君の専門分野だな、何か貢献できるアイデアはあるか?」と言ってきたのかい?
リー・クローニン:非常に協力的だよ。彼らは資金を提供している多くの異なるパフォーマー(研究グループ)を抱えていて、私たちはみんな集まって情報を共有し、プールしている。科学の境界を押し広げようとしているんだ。イギリスにもDARPAのバージョンが存在する。ARIA(先端研究発明庁:Advanced Research and Invention Agency)という機関だ。
ホスト:イギリス人である君がDARPAと仕事をすることに対して、彼らは文句を言わないのかい?
リー・クローニン:もちろん大丈夫さ。ARIAだってアメリカの研究者に資金を提供することがある。DARPAがイギリス人を支援するのと同じようにね。
ホスト:おぉ、それは面白いな。
リー・クローニン:彼らは「最高のアイデアがある場所」に資金を出す。納税者への説明責任はもちろんあるけれど、誰かが自分たちにとって極めて有用なものを構築しているなら、それは理にかなっている。DNAコンピュータの話に戻ろう。コンピュータサイエンティストたちはDNAをコンピュータとして捉え、既存の伝統的なコンピューティングのパラダイムにそれを落とし込もうとしている。しかし、僕は「脳は従来のコンピュータとは違う」と主張している。脳は、私たちが理解していないこと――つまり「想像力」を実行する能力を持っている。すごくないかい? まだ存在しないものを想像することができ、その想像されたものは因果的な力を持っている。なぜなら、そのものを想像し、それを現実のものにすることができるからだ。これこそが起業家たちが常に行っていることだ――「このウィジェットを作ろう、モバイルフォンやiPod Nanoを作ろう」という風にね。人間は、まだ存在しないもの――頭の中、分子、シナプスの中にしか存在しないもの――を想像する能力を唯一無二に持っており、文字通りそれを未来から掴み取って現在へと引きずり下ろすことができるのだ。
ホスト:文字通り、未来からね。
リー・クローニン:僕がそう呼びたい所以さ。なぜなら僕にとって未来とは予測不可能であり、可能性空間(ポッシビリティ・スペース)だからだ。想像力は確率空間ではなく、可能性空間の中で機能する。SpaceXで、「ロケットを鉄で作って、それをキャッチしようじゃないか。超音速で飛び立ち、亜音速で着陸し、キャッチする頃にはソニックブームが聞こえるような、超高層ビルサイズの代物を作ろう」と言い出した人物は誰だったか。それは狂気の沙汰だけど、今やそれは科学的事実(サイエンス・ファクト)になっている。だからこそ人間は、ジュール・ヴェルヌのようなSF小説がとても得意なのだ。デジタルコンピューティングがすべてではない。そして事実として、私たちは「世界全体がシミュレーション可能なエンティティである」と考えている。ニック・ボストロムは「私たちは全員シミュレーションの中に生きている」と言ったけれど、それは基本的に反証不可能性(アンファルシファイル)なものだ。
ホスト:私たちがシミュレーションの中にいるということが、なぜ反証不可能なんだい?
「信仰に根ざしている」と評されるシミュレーション仮説
リー・クローニン:シミュレーションがどこに存在するというんだ? 無限後退(インフィニット・レグレス)に陥るだろう。
ホスト:無限後退とはどういう意味だい?
リー・クローニン:もし僕がシミュレーションの中にいるのだとしたら、それは素晴らしい。そのシミュレーションはどこかに存在していなければならない。例えば、僕があるコンピュータの中に存在しているとしよう。そのコンピュータはどこにある? それも別のシミュレーションの中なのか? シミュレーションの中のシミュレーション、さらにその中のシミュレーションなのか? もしどこまで行ってもシミュレーションであることを反証できないのだとしたら、それは宗教的なコミットメント(信仰)、つまり「信念」を持つことと同じなのだ。「神が存在することを反証できないから神は存在しない」と言っているわけではなく、「それは科学的プロセスになじまない」と言っているのだ。もし何かが科学的方法になじまないならば、それは信仰の領域なのだ。デイヴィッド・ドーイツ(David Deutsch)がその著作『無限の始まり(The Beginning of Infinity)』の中で非常に見事に書いているように、シミュレーション議論とは、信仰に根ざしているがゆえにゴミのような議論なのだ。
ホスト:それが単なる信仰を超えているのではないかと僕が思う点は2つある。1つ目は、私たちは宇宙がどこまで広がるのかすら分かっておらず、物理的に観測できた範囲しか知らないということ。そして2つ目は、人間のパターンの中には、私たちがシミュレーションの階層の中にいるのではないかと示唆させるような、説明のつかない出来事が起きるということだ。
リー・クローニン:私たちは宇宙の中に生きている。では、宇宙を創造したのは誰だ?
ホスト:誰が創造したと僕は信じているのかって?
リー・クローニン:創造主がいたと言うこともできるし、ただ「存在している」と言うこともできる。しかし、それを反証できないという事実こそが、それを興味深い会話のネタにしているにすぎない。デザイナーがいたのか、神がいたのか? もちろん、それもいいだろう。しかし、私たちが科学的方法を使って探求できるものは何だろうか?
ホスト:しかし君は、ローレンス・クラウス(Lawrence Krauss)のように「無から何かが生まれた」と言うタイプの人間ではないと言っていたよね。何らかの「もの(何か)」から始まったと信じているはずだ。
リー・クローニン:その「無から有が生まれた」という議論は、僕に言わせればシミュレーション議論とよく似ている。どちらも根本的な科学的欠陥を抱えている。物質主義者である僕としては、物質世界の中で働きかけ、自分の周りにある物質を使って実験を行う方を好む。だからといって私たちがシミュレーションの中に生きていないとか、何かが無から生まれなかったというわけではない――単に、それを反証するための実験を僕が組み立てることができないというだけの話だ。
ホスト:では、それを反証するための実験を構築する方法を、私たちはどうやって見つければいいんだい?
リー・クローニン:可能だとは思わないね。僕のささやかな知性では、現時点でそれを反証することはできない。
ホスト:1400年代の人々は重力を反証できなかったけれど、ある日リンゴが落ちてきただろう。
リー・クローニン:いや、彼らだって反証できたさ。ただ物を投げ合っていただけだ。それをどう形式化すればいいのか分からなかっただけでね。そこで哲学が極めて重要になってくる。もし私たちが「特定のものが存在している」という存在論(オントロジー)や形而上学を前提とし、その形而上学の中での関係性を調べようとするならば、それらの階層は自己矛盾のないものでなければならない。シミュレーション仮説と「無からの生成」の両方に見出されるのは、「無限後退」だ。無限後退に陥ると、前進することができなくなる。だから、それは科学的方法の枠外にあるものとして脇に置いておくべきだ。だからこそ、シミュレーションの議論をまるで深刻な議論であるかのように議論し続けるのはくだらないことなのだ。人生においては、もっと議論すべき興味深いことが山ほどある――どうやってがインを治すのか、核融合エンジンを使って素早く火星に行けるのかどうか、といった疑問のほうがよほど面白い。なぜなら、それらに対しては私たちが実際に影響を与え得ることができるからだ。
僕にとって、シミュレーションは非常に興味深いテーマだ。なぜなら、僕は化学ロボットを構築しているからだ。何かをするためのロボットを作り、同時にシミュレーションを構築する場合、「検証(ベリフィケーション)」と呼ばれるプロセスが必要になる。AIの世界において、AIが非常にうまく機能している分野は、特定の問題に対して非常に優れた検証が行われているところだ。僕がAIからインスピレーションを受けたことの一つは、物理化学のための正しい検証ループを構築することだ。数年前に僕は化学のためのプログラミング言語を発明したけれど、周囲からは「そんなのナンセンスだ、適当に作り上げただけだろ」と言われたよ。確かに自分で作り上げたけれど、決してナンセンスなんかじゃない。そのアイデアが浮かんだのは、自分が作った3Dプリンターに化学をやらせたいと思ったからであり、その3Dプリンターが火を吹かない(燃え上がらない)ように確実にしたかったからだ。だからそのプログラミング言語を構築し、それによってデジタルツイン(デジタル上の双子)を作り、サンドボックス内で検証とテストを行えるようにしたんだ。現実世界で行う前に、モデルを作って火災が起きないか確認できるシミュレーションは素晴らしい。現実世界を取り上げ、そのモデルを作り、現実世界で実行したときに燃え上がらないことを確認できるなら、僕は喜んでそれを使うよ。
もっとも、だからといって、いつの日か「ディジェント(デジタル上のエージェント)」を内部に配置できるようなシミュレーションを私たちが創造できないという意味ではない。テッド・チャン(Ted Chiang)が『ソフトウェア・オブジェクトの生涯(The Lifecycle of Software Objects)』という本当に素晴らしい中編小説を書いている。テッド・チャンは素晴らしい思想家であり、作家であり、サンタフェ研究所の外部フェローでもある。彼とは何度も会い、アセンブリ理論について議論したことがある。そのディジェントたちは世界の中で生き、物理的なロボットとして具現化することができるエンティティだ。意識があるかのように見えるものを創造し、道徳哲学や倫理について真剣に考えなければならなくなるような、十分にリッチな計算上の宇宙を僕が創造できる世界を想像することはできる。それは想像できるけれど、そのためにはどんな物理学を構築しなければならないのか僕には分からない。なぜなら、生命とは何か、化学がいかにして生物学になったのか、生物学がいかにして意識を生み出すのか、そして意識がいかにして知性と自由意志を作るのかを、僕たちは理解していないからだ。それらを理解するまでは、そのシミュレーションを構築することはできないのさ。
ホスト:なるほど、よく分かったよ。
リー・クローニン:ボストロムは本当に良い奴だよ。
ホスト:彼と話したことはあるかい?
リー・クローニン:ないんだ。彼がいたいくつかの会議に居合わせたことはあるけれどね。ただ、もし話したら僕はあまりにも面倒くさい奴と思われるだろうね。僕は「ボストロム・コンファビュレーター(虚偽記憶製造機)」を作ってしまうかもしれない――適当なことをたくさん並べてそれが現実だと思い込んでいる哲学者さ。「この代わりの宇宙の中で間違ったコーヒーカップをシミュレートしてしまったら、特異点(シンギュラリティ)が引き起こされて世界全体が消滅してしまうのではないか?」なんてね。
ホスト:彼がそこまで言っていたかどうかは分からないな。彼が言っていたのは、物理法則を無視して宙に浮くオブジェクトの話というよりは、一般的に創造や破壊のためにコードがどうプログラミングされるかという文脈だったと思うけれど。
リー・クローニン:その議論が、人々に「超知能と呼ばれるものが可能かもしれない」と思い込ませてしまった。それはまるで「光速を超えることができる」と言うようなものだ。光速を超えることはできない。絶対にね。それは宇宙の法則なのだ。質量にエネルギーを加えて加速させようとすると、それに到達するのを妨げる放射線が放出される。CERN(欧州原子核研究機構)の陽子ビームでも常にそれが起きている。光速の99.99999%が絶対的な限界のようだ。
ホスト:つまり、わずかに可能性はあるということかい?
リー・クローニン:いや、可能性はない。しかし科学者として、オープンマインドでなければならないため、「絶対」とは言い切れないのだ。物事に制限を設けることこそが、私たちがテクノロジー社会を築き上げることを可能にした。病院に行って動脈にステントを挿入するとき、死ぬ確率はゼロではない。しかし統計を見てみれば、ステントによって生き残る確率は多くの死を防いできた。科学において「絶対にない」とは決して言わない。ただスケールの端っこに行って、「光速を超えることはないという確率は99.999999%だ」と言うだけさ。
ホスト:CERNに言及していたけれど、君はCERNとなにか関わりがあるのかい?
リー・クローニン:いや、ないよ。CERNに行ったことはある。CERNでTEDxトークを行ったんだ。CERNは、そこにまつわるメディア戦略や、一般の人々の関心を煽るという意味において素晴らしいマシンだ。莫大なコストのかかる巨大な実験施設だ。私たちはCERNを利用してヒッグス粒子を発見した。素晴らしいことだね。
ヒトゲノム計画は本当に価値があったのか?
リー・クローニン:あれに50億ユーロ(あるいはドル、いくらか忘れたけれど)を投じた価値はあったのだろうか? 僕には分からないね。
ホスト:それってアカデミアの大きな特徴のように思えるね――一般市民に向けてどれだけバズ(話題)や誇大広告、SF的な関心をかき立てることができるかということと、実際に画期的なものを創出する価値のあるアイデアに資金を投じることの間でのバランスがね。
リー・クローニン:どんな科学的事業に資金を投じようとも、そこから成果(リワード)が生まれてくる。そしてその成果が出尽くしたとき、私たちはどうするか? おそらくそれを終わらせて、また新しいものに挑戦する――いわゆる「創造的破壊」だ。ヒトゲノム計画には価値があったのか? まあ、当時はその価値に見合っていなかったかもしれないけれど、今となっては価値があったと言える。なぜなら、私たちは今やゲノムを編集する方法を知っているからだ。
ホスト:その点をもう少し説明してもらえるかい?
リー・クローニン:ヒトゲノム計画が実施された当時、それはイギリス医学研究会議(MRC)とアメリカ国立衛生研究所(NIH)の間での巨大な共同プロジェクトだった。彼らはヒトゲノムの配列を解読するための技術を構築するために多額の資金を費やした。そして、偉大なパイオニアであり起業家であるクレイグ・ヴェンター(Craig Venter)が、知的財産を手に入れるために彼らを出し抜こうと会社を立ち上げた。それを正当化するために、私たちは「これで全ての病気が治る」と言ったものだ。そしてヒトゲノムの解読に成功したけれど、全ての病気が治ったわけではない。今まさに何が起き始めているかというと、非常にエキサイティングなことに、病気の遺伝子をどのように修正すべきかを私たちが理解しつつある「遺伝子治療(ジーン・セラピー)」がたくさん登場している。生まれつき目が見えなかった若者たちが、遺伝子治療によってタンパク質を修正され、目が見えるようになった例もある。それは素晴らしいことだ。また、身体の免疫システムをリプログラムしてが治療を行う遺伝子治療についての理解も進んでいる。私たちが知っているほとんどのガンは、私たちの寿命が尽きる前に、小分子を用いた分子療法とゲノム療法の組み合わせによって治療可能になる可能性が非常に高い。
ホスト:もしかすると、彼らはすでにその治療法を持っていながら、人々に与えていないだけなのではないかと思ったりしないかい?
リー・クローニン:いや、そんなことはない。なぜそんなことをする必要があるんだ――だって、そんなのバカげているだろ。
ホスト:なぜそれがバカげていると言えるんだい? 私たちは何十年もの間、同じような残酷な治療法(抗がん剤治療など)を使い続けてきたじゃないか。
リー・クローニン:陰謀なんて存在しないよ。そんなものが成立するはずがない。世界中で多くの製薬会社が医薬化学に取り組んでいる。生物学の発展は急速に進んでいるけれど、最も重大な問題は、それらの研究室での発展を臨床(クリニック)へと「トランスレーション(橋渡し)」しなければならないということだ。そして人間という生き物は複雑であり、人々は死ぬ。中国とアメリカ・イギリスの間には、現在、規制の厳しさをめぐって非常に興味深い対比が存在する。規制の違いから、中国では臨床試験がより急速に進んでいる場所もある。西側諸国では、私たちははるかによりリスク回避的(リスクアバース)だ。もしもう少し多くの死を受け入れることができれば、もっと早く進むことができるだろうか? おそらくね。私たちが西側諸国で抱えているあらゆる制限は、私たちの規制環境の関数であり、それは結局のところ投票者(有権者)の関数の表れなのだ。
ホスト:中国は、そうしたガードレール(規制の枠組み)を同じようには設けていないがゆえに、リスクを取る形で前進してきた。確かに、ガードレールを持つことにはそれなりの意味があるけれどね。
リー・クローニン:かつて、遺伝子治療を使って受精卵を編集し、人間として誕生させ、問題を引き起こした中国の科学者がいた。彼は基本的にゲノムの編集を誤ったため、刑務所に投獄されたよ。
ホスト:彼は何をしたのかい? 子どもたちがより良い人生を送れなくなってしまったのか?
リー・クローニン:たしかHIVウイルスに関連する何かだったと思うけれど、彼がやったことはあまり賢明なものではなかった。
ホスト:――「遺伝子組み換えベビーを誕生させたと発表し世界に衝撃を与えた中国の科学者に禁錮3年の実刑判決。賀建奎(何建奎)被告と2人の協力者が違法な医療行為で有罪判決を受けた」とあるね。中国の国営通信社・新華社によると、深圳の裁判所は、彼と2人の協力者が倫理審査書類を偽造し、医師らを欺いて、遺伝子編集した受精卵を2人の女性に無断で子宮に移植させたと認定した。一人の母親が2018年11月に双子の女児を出産し、3人目の赤ちゃんがいつ誕生したかは明らかにされていない。裁判所は、3人の被告が生物医学研究および医療倫理に関する国家の規制に意図的に違反し、生殖医療に対して遺伝子編集技術を軽率に応用したと裁定した。3人とも罪を認めた。2018年11月、彼はHIVに対する抵抗力をもたらすと考えられているヒト受精卵の主要遺伝子を改変したと発表した。将来的に子どもたちがHIVに感染する可能性をなくしたかったのだという。しかし、それは他の深刻な弊害を引き起こした。――
リー・クローニン:あれは完全に最も愚かな行為だった。なぜなら、HIVは今や――かつては同性愛者の男性を中心に多くの人々を壊滅させたけれど、その後私たちはそれをコントロールするための治療法を手に入れた。今ではウイルス量が検出限界以下になるほど完全にコントロールできるようになっており、他人に感染させることはほぼ不可能になっている。化学的にコントロールしてウイルスを抑制できるのだ。人類の医療技術にとって何という偉大な達成だろうか。彼はただ一歩を踏み出しすぎてしまっただけだ。私たちは今後、遺伝子編集をどのように行うべきかについて議論しなければならない。ヒトゲノム計画が信じられないほどの偉業であったのと同様に、CERNを利用してヒッグス粒子を発見したことも信じられないほどの偉業だった。私たちは今、「AIラボがすべての科学を自動化してくれるから、費用も安くなり、あらゆる病気が一瞬で治るだろう」という錯覚(イリュージョン)の中に生きている。しかし、そんなことは起きない。AIツールは私たちがいくつかの病気を治し、新しい分子を生み出すのを助けてくれるだろうが、それがどこまで行けるのかは未知数だ。
ホスト:もしAIが単なる強力な加速装置であり、人間が主導権を握ったまま物事を圧倒的なスピードで解決できるようになるのだとしたら、それは終末論とは真逆のものだね。
リー・クローニン:僕はAIドゥーマーたちに対して一定の共感を覚える。なぜなら彼らは、何が起きているのかを政治家たちに理解させようと必死だからだ。同時に、AIによって人類が繁栄することを望む「AIアバンダンティスト(豊かさ論者)」たちにも共感する。僕が嫌いなのは極端な意見だ――「私たちは全員死ぬんだ」とか、「私たちは全員永遠に生き続け、無限の物質を手に入れるんだ」という極論ね。そのどちらもが完全にバカげている。
イーロンの主張:「10年後にはお金はなくなる」
リー・クローニン:懸念されるのは、AIシステムを使ってコンピュータシステムがハッキングされ、銀行口座や暗号化など、あらゆるソフトウェアが恒久的に安全でなくなってしまうのではないかということだ。高速道路を走っているテスラ車が突然狂ったような挙動を起こすなんてご免被りたい。一方で、AIを使ってテクノロジーを加速させ、病気を治したいとも思う。しかし、AIによって莫大な富を手に入れた人々の中には、「10年後にはお金なんてなくなっているだろう」と言い出す者もいる。
ホスト:ああ、その主張は全く理解できないね。
リー・クローニン:それはイーロンがまた適当なことを言っているだけさ。イーロンは天才だが、コミュニケーションの天才ではないからね。
ホスト:どうやったらお金がなくなって、全員がまったく同じ状態になるなんてことが起きるんだい? 特にそんな短期間で。
リー・クローニン:お金とは、「リソース(資源)の配分」を表現する道具にすぎない。人間が何をすべきかを決定している限り、お金は必要とされるだろう。特定のものを構築するために必要なリソースは減少し、漸近的(アシンプトティック)にゼロに近づくことはある。かつては数ドルもしたのに、今ではたった15セントで買えるマイクロプロセッサだって存在する。しかし、常にボトルネックは存在する――地球という惑星は有限の大きさであり、今日アクセス可能なエネルギーの量も有限であり、物理的資源の量も有限なのだ。しかし、「可能性」の量は無限だ。私たちは物をリサイクルし、新しいエネルギー源を見つけ出し、全く新しい経済を作り出すだろう。10年未満で無限の豊かさが手に入るというアイデアは、AIツールを作り出している人たちがその能力にあまりにも圧倒されていることに対する反動にすぎないのかもしれない。ClaudeやChatGPTを使ってパワーポイントを作らせてみると、確かにかなり良くできているからね。
ホスト:ああ、そういうツールを使えばアプリだって作れるからね。
リー・クローニン:しかし、Claudeに向かって「適当にXについてのパワーポイントを作ってくれ」と言ったところで、十分な情報を与えなければゴミのような代物が出来上がる。ゴミを入力すればゴミが出てくる(GIGO)。「これが僕の伝えたいポイントであり、これがそのための基礎データだ。作ってくれ、そして一緒にブラッシュアップしよう」と言えば、AIツールを使って自分の創造性を解き放つことに何の問題もない。書くことに関して言えば、僕はAIに代わりに文章を書かせるだろうか? いや、AIが書く文章はあまりにも意味論的に一律(セマンティック・ユニフォーム)だ。「Aではなく、Bである」といった調子だ。どうかそんな書き方をしないでくれ! 僕の文章は未熟かもしれないけれど、それは僕自身の声なのだ。もちろん、タイポ(誤字)を修正するためにAIを使うことはある。しかし、AIが勝手に僕の文法をきれいに整えようとすると、「いや、そうじゃなくてこう聞こえるようにしたいんだ」と言い返す。非常に興味深いことに、僕は今、すべての論文の校正(プルーフ)をチェックするためにAIを使っている。PNAS(米国科学紀要)に掲載された「地球外生命の検出に関する論文」――『Molecular Assembly Is a Universal Biosignature Measurable by Mass Spectrometry(分子アセンブリは質量分析で測定可能な普遍的バイオシグネチャーである)』という論文があるのだけれど、その校正刷りをChatGPTに入力したら、僕が見逃していた10箇所のタイポを見つけ出してくれたんだ。
ホスト:そのアブストラクト(概要)を読んでみよう。「地球外生命の探査には、既知の生物の化学組成に依存しないバイオシグネチャーが必要である。アセンブリ理論から導き出される分子アセンブリ(MA)は、基本的なビルディングブロックから分子を構築することがどれほど困難であるかを定量化し、複雑性を選択および進化に直接結びつける。本研究では、MAが解釈可能かつ実験的に測定可能な普遍的バイオシグネチャーとして機能することを示す。情報理論的な尺度とは異なり、MAは構造の解明を必要とせず、質量分析データから直接推論することができる。標準化された単段階スペクトルでトレーニングされた機械学習モデルを使用することで、MAをベースライン手法よりも3倍低い誤差で予測できることを実証する。シミュレーションによる多段階データは、わずかな機器の個体差が予測誤差を倍増させる可能性があることを明らかにしており、キャリブレーション(校正)の重要性が浮き彫りになる。これらの発見により、分子アセンブリは、質量分析によって測定される物理的根拠に基づいた定量可能なバイオシグネチャーとなり、その解釈は機器の影響を慎重にコントロールすることに依存し、将来の惑星探査ミッションにおける生命探査へのスケーラブルな道筋を提供する」――グラフのほうを見てみよう。
リー・クローニン:理論が存在しているからこそ、機械学習を使うことができる。人々は生命を探すために機械学習を使おうとしてきたけれど、単に適当なことをでっち上げていただけだった。アセンブリ理論はその基盤を理解する手助けをしてくれる。温度:私たちは何かが熱いか冷たいかを知っているが、どうやってそれを定量化するのか? 生命:私たちは何かが生きているか死んでいるかを知っているが、どうやってそれを測定するのか? 生きたシステムは、多数の異なるパーツが高コピー数(多数の同一部品)で構成された分子を独自に作り出すため、私たちはそれを測定することができる。私たちの温度計に相当するのが「質量分析計(マスペクトル)」だ。質量分析計がやっていることは、分子の重さを量り、それを真空の電界に放り込んでどれくらい重いかを測定することだ。そしてそれにエネルギーを与えて断片化させる――お皿を地面に叩きつけて割るようなものだ。破片の数を数えることで、アセンブリ指数(組み立てインデックス)を測定するのだ。現在、火星には3台の質量分析計が存在し、NASAはプルトニウム燃料で動く「ドラゴンフライ」と呼ばれる原子力クアッドコプター(ドローン)をタイタン(土月の衛星)に送ろうとしている。タイタンの空を飛び回り、空気を嗅ぎ、質量分析を行う予定だ。
ホスト:太陽系外惑星(エキソプラネット)で生命を見つけ出すために、こうした手法のどれかを使うことはできるかい?
リー・クローニン:もちろんできる。もうすぐ発表される論文があるけれど、そこでは系外惑星における生命の存在確率を測定するためにアセンブリ理論を使用している。系外惑星の世界では、メタン(CH4)、酸素(O2)、水(H2O)といった生命の「単一のマーカー」について語られることが多い。これらはすべて非常に小さな分子であるため、生命と非生命の違いを判別するのに十分な情報量を運んでいない。火星のメタンは地質学的なプロセスによって生成された可能性がある。酸素は水に紫外線を当てることで分解されて生成されることもある。ガスから生物学を推論するための答えは、アセンブリ理論に他ならない。実験室でアセンブリ指数を測定するには、質量分析、NMR(核磁気共鳴)、赤外分光法という3つの手法を使うことができる。
アセンブリ理論と宇宙における生命
ホスト:子供の頃から宇宙人(エイリアン)についてよく考えていたかい?
リー・クローニン:取り憑かれたように考えていたわけではないね。おそらく、「なぜ僕はここにいるのか?」「なぜ生命が存在するのか?」「どうすればこれを分解して仕組みを理解できるのか?」といったことばかり考えていたと思う。しかし、化学的現象としての「生命とは何か」を理解することは、地球上の生命現象を理解するために不可欠であり、それがひいては宇宙人についての洞察をもたらしてくれる。もし私たちが黒い空に浮かぶ自分たちの太陽しか目にしたことがなければ、太陽がどのようにして生まれたのかについて夢中になっていただろう。私たちは、太陽が水素の重力崩壊によって生まれ、強烈な核融合を起こすのに十分な高温になることで形成されたことを知っている。宇宙の至る所で星を目にすることができる。しかし、地球上の生命については「N=1(サンプル数が1つ)」しか持っていない。もし私たちが、地球上で生命が誕生した化学的確率がどれほどのものかを理解できれば、確率の境界線を引くことができるようになる。
ホスト:宇宙がどれほど巨大なのか私たちが分かっていない中で、どうやってそれができるんだい?
リー・クローニン:天の川銀河のサイズを推測することはできるし、宇宙の光円錐(ライトコーン)の境界もある。どの星にも惑星が周回しているように見える。それらの惑星は次のいずれかだ:死んでいて生命が誕生したことがないもの、アビオティック(非生物的)だが生命の可能性があるもの、生命が存在するもの、生命が存在しテクノロジーを持つもの、あるいはポスト・テクノロジーのもの。生命が存在できるのはおそらく特定の温度ゾーンの内部だけだろう:熱すぎれば化学結合が崩壊し、冷たすぎれば何も起きない。デイヴィッド・キッピング(David Kipping)のポッドキャスト『Cool Worlds』を聴いていると、居住可能ゾーン(ハビタブルゾーン)について話していた。惑星はそれに適応して応答できるのではないかと僕は気づいた。地球は「後期重爆撃期」のあと冷却し始め、ジェームズ・ラヴロックの「ガイア仮説」のようにフィードバックプロセスが温度を調節した。もし惑星上で生命が芽生え、その惑星が居住可能ゾーンから外れそうになったとき、進化はまるでサーモスタットのようにそれに反発する方向で応答するだろう。惑星は生命の出現のために自らを自己調節する能力を持っているのだ。
ホスト:もし惑星が恒星の周りを移動して、より接近し熱くなっていったとしたら、惑星自体がそれに適応して調整できると言っているのかい?
リー・クローニン:知性が生まれる前ならノーだ。知性が生まれた後なら、おそらくイエスだね。そこから僕の大好きな中国のSF映画『流浪地球(The Wandering Earth)』を思い出す。もし惑星が恒星の周りを移動して接近し熱くなったとき、大気圧を調節するかもしれない――暑くなりすぎたら大気を反射性にしてシールドを上げ、遠ざかったら光を閉じ込めてシールドを下げる、という風にね。気候変動は人間にとって頭の痛い問題だ。なぜなら私たちは海岸線や赤道という農業に適したゾーンの周辺に都市を築いてしまったからだ。しかしシベリアは今後、居住に非常に適した場所になっていくだろう。数百年のスパンで言えば、シベリアの不動産を買っておくべきだね。私たちは気候変動に対する技術的な解決策をきっと見つけ出すだろう。地球が、生命を生み出したことによって、通常よりも長く生き延びることができるようになるかもしれない。
ケミファイ・ジェネシスと雇用消失の恐怖
リー・クローニン:これからの50億年の間に、太陽は水素を使い果たしてヘリウムの核融合を始め、より大きく、より熱くなっていく。私たちには何十億年もの猶予がある。地球をそっちの方向に優しく押しやってやればいいんじゃないか? 核爆弾をいくつか爆破させて、ブーム、1年に数ミリメートルずつ軌道をズラすのさ。20億年あれば、たくさんのことができるさ。
ホスト:今度、君とデイヴィッド・キッピングをこのポッドキャストに一緒に招かないといけないな。彼は11月にまた出演する予定だからさ。
リー・クローニン:それはアイデアを交わすのに最高にクールだな。彼のポッドキャストを聴いたとき、「いや、それは違うだろ」と思ったことがあるからね(笑)。
ホスト:君は「ノー」と言う男だね。疑問に思うことを耳にした瞬間、臆することなくそれに挑戦する姿勢を持っている。
リー・クローニン:リアルタイムの批判的思考を行うためには、他人の反発に萎縮せず、自分が間違っている可能性を甘受し、学ぶことにオープンでなければならない。私たちはAIを「魔法」だと思い込まされているからこそ、神格化してしまっている。OpenAIはモデルをトレーニングしたときに認知の宝の山(トレジャー・トローヴ)に行き当たり、突如としてチャットボットが次のトークンを予測するのに非常に長けるようになった。コンテキストウィンドウ(文脈長)を広げれば広げるほど、さらに性能が向上した。ガードレールや思考の連鎖(チェーン・オブ・ソート)能力を構築したことで、これらのシステムは連鎖的に機能できるようになった。しかし、私たちはそれを神格化から引きずり下ろし、「知性」「創造性」「新規性」とは実際に何なのかを再定義しなければならないのだ。
僕の会社「Chemify(ケミファイ)」には、今や数百人の従業員がいる。ある会議で、「私はこれでワークスタッフからこれだけの数の人間を削減できたよ」と自慢している人たちがいた。僕は「おいおい、君たちは何をやっているんだ?」と言ったね。人間という生き物は、驚異的に柔軟であり、無限の問題解決能力と無限の創造力を持ったマシンなのだ。削減するのではなく、もっと多くの人間を雇うべきなんだよ。雇用が奪われるという恐怖全般について、僕はむしろ不快感を覚えている。Chemifyの目的は、化学のための世界モデルを構築することだ。chemify.io/genesisにアクセスすれば、その世界モデルについて説明されている。
分子のバーチャルライブラリー
ホスト:「画面上の分子は単なる仮説にすぎない。尋ねよ(Ask)、作れ(Make)、テストせよ(Test)」。
リー・クローニン:人々は、創薬とは「分子を発見すること」だと思い込んでいる。昔は植物を観察し、生物活性を持つ分子を見つけ出し、医薬品を発見していた。医薬品になりうる可能な分子の化学空間は、一般的に10の60乗と言われている。宇宙に存在する原子の数は10の80乗だ。僕はアセンブリ理論を使ってその計算をやり直してみた:それは10の60乗ではなく、10の117乗なのだ。私たちはarXivにその論文を公開した――『Elucidating the Size of Chemical Space with Assembly Theory(アセンブリ理論による化学空間のサイズの解明)』だ。利用可能な化学において、もし分子のアセンブリ指数が25ステップであることを許容するなら、アクセス可能な分子の数は10の117乗に達する。化学空間があまりにも巨大すぎて検索しきれないとき、私たちは「斬新なもの」を生み出さなければならない。そこに「Genesis(ジェネシス)」の存在意義がある。
Genesisは単なるカタログでも、反応検索エンジンでもない。それは実際の化学的キャパシティに直結した計算上の実行ループであり、アイデアを検証済みの物質へと変えるものだ。創薬を行っているこれまでのAI企業は、画面上でランダムなグラフを生成しているだけにすぎない――彼らにはそれを実際に合成することができないのだ。Chemifyがやっていることは、ケミカルロボットを使って物理世界で実際に分子を合成することだ。Genesisは、AIモデルを私たちのロボット合成エンジンに直接接続する。顧客はGenesisを購入し、自分たちの知的財産を完全に保持したまま、オペレーショナルデータを連邦学習(フェデレート)する。Chemify側は化学を実行するスピードが速くなり、顧客側のデザインは完全に暗号化されて分離されたままとなる。英国バイオバンク(UK Biobank)が運営されている仕組みと似ているね。私たちはグラスゴーにケンプューター・ファーム(Chemputer Farm)を建設した。反応を行うたびに、私たちの世界モデルが賢くなっていく。Chemifyが持つ、デジタル検証可能な分子のバーチャルライブラリーは、10の117乗の総空間から引き出された10の40乗に及ぶ。
「そうだ、僕は神を演じたい」
ホスト:AIのようなツールのスケーリングや、人間が指数関数的な速度でレバレッジできる能力を見ていると、「神を演じる(Playing God)」という領域に私たちが踏み込み始めていることについて、不安を覚えることはないかい?
リー・クローニン:いや、僕は神を演じたいね。実際、神を演じるのが大好きさ。私たちはすでにスマートフォンを持ち、医薬品を作り、車を運転している。僕は空飛ぶ車が欲しいんだ。アーサー・C・クラークが言ったように、「十分に発達したテクノロジーは、魔法と見分けがつかない」。スマートフォンを手に持って誰かとFaceTimeをしながら過去にタイムスリップしたとしたら、人々は君を神だと勘違いするだろう。私たちが確実にしなければならないのは、人間が繁栄し、健やかに生きられるようにすることだ。どのような基準で見ても、地球上の人類はかつてないほど素晴らしい時代を生きている。私たちはアンモニアを作るために化石燃料を燃やし、世界中の人々の食料を支えている。もし気候変動を解決するためにジオエンジニアリング(地球工学)を試み、予期せぬ何かで50人が犠牲になる一方で何十億もの命が救われるとしたら、その計算結果はどうなるだろうか?
ホスト:ダイアウルフ(絶滅種のオオカミ)やケナガマンモスなどの絶滅種を復活させようとしているコロッサル・バイオサイエンス社のような、遺伝子工学についてはどう思うかい?
リー・クローニン:ジョージ・チャーチ(George Church)がおそらくその背後にいるのだろうね。ジョージは非常にいたずら好きだ。僕が化学の実験をするのが好きなのと同じように、彼は生物学の実験をするのが好きなんだ。彼は倫理的・商業的に何が許容されるのかの限界をテストしている。低いIQは治せる疾患なのだろうか? もし遺伝子工学によって人間のIQを高めることができるとしたら、君はそれをやるかい? 帝王切開が社会に受け入れられるようになったのと同様に、何が受け入れられるかは社会が決定していくだろう。イギリスでは、重篤なミトコンドリア病を防ぐために「ミトコンドリア提供療法」、いわゆる「3人の親を持つ赤ちゃん」の施術が承認され、本来なら筋肉ジストロフィーで命を落としていたはずの健康な子どもたちが誕生している。
12フィートの巨人たちと遺伝的運命
ホスト:それには反論しにくいね。
リー・クローニン:もしミトコンドリアをスーパーチャージしたら、超人的なアスリートを生み出すことができるだろうか? 西欧では過去数百年、栄養不足のために人々は自分たちの遺伝的運命を十分に達成できなかった。しかし今日のオランダでは、人々は6フィート(約180cm)以上の堂々たる体格に育っている。僕が懸念しているのは、「誰かがChemifyのテクノロジーを悪用して危険なものを大量生産するのではないか」ということかい? 私たちはシステムの中に暗号化とGPSによるジオロケーション(位置情報)ベースのライセンスを組み込んでいる。ケンプューターには、広範なファイアウォール、リアルタイムのテレメトリー(遠隔測定)、フェイルセーフ設計が組み込まれているんだ。
100年前、「コンピュータ」とは高層ビルの中で計算尺を使って世界中で毎秒数十万回の演算を行っている人間たちのことだった。今日、毎日化学反応を行っている化学者の数は10万から100万人の間だ。Chemifyの物理AIは、化学的オペレーションの数を劇的に増加させるだろう。出生率が低下している現在、人々をより長く健康に保ち、サブスクリプション型の医療や高度な治療法を通じて経済を駆動していく必要があるのだ。
ピアーズ・モーガン番組でのジェームズ・ツアーとの激論
ホスト:ジェームズ・ツアー博士が間違っていて、君が正しければいいけれどね。ピアーズ・モーガンの番組で君たちが激しくやり合っているのを見たよ。
リー・クローニン:ジェームズ・ツアーは「第一に化学者、第二に科学者」だ。一方、僕は「第一に科学者、第二に化学者」だ。ジェームズは化学を行い、その権威を利用して自分の宗教的信念システムを正当化しようとしている。彼は「生命の起源については誰も何も分かっていない」と主張している。もし僕がすでに答えを知っているなら、何のために実験をするというんだ? 彼の主張に公の場で議論を挑む気があるのは、世界中で僕くらいのものさ。ピアーズ・モーガンの番組はフォロワーが膨大だし、議論していて楽しかったよ。僕の息子のひとりがそれを見て、「お父さんが何かについて話しているのを理解できたのは、あれが初めてだよ」と言ってくれた。それだけで、出演した価値があったというものさ。
リーの取り組み
ホスト:科学についてオープンに対話できるのはいつだって素晴らしいことだね。リー、いつもありがとう。また近いうちにやらないといけないな。さあ、今からステーキでも食べに行こうか。
リー・クローニン:ありがとう、一緒に入れて楽しかったよ。それじゃ、また次回に。
ホスト:皆さん、ぜひ考えてみてくれよ。ピース。ご視聴ありがとうございました。チャンネル登録、高評価、Patreonへの参加、そして下のDiscordの切り抜きコミュニティへの参加をよろしくお願いします。次のエピソードでお会いしましょう。