Evercore:ServiceNowのデータ事業はARR 10億ドル超へ順調、投資家が過小評価する「堀」の深さ
Evercore Global TMT Conference(2026年6月3日)— ServiceNowのEVP、Gaurav Rewari氏が語る、単なるAIイネーブラーにとどまらない同社データ・分析プラットフォームの収益エンジン化
10億ドルに迫る新たな事業の柱
Evercore Global TMT Conferenceで示された数字はシンプルかつ極めて重要だ。ServiceNowのデータ・分析担当EVP兼ゼネラルマネージャーであるGaurav Rewari氏は、EvercoreのアナリストKirk Materne氏に対し、同社のデータ・分析事業が「あと数四半期でARR(年間経常収益)10億ドル超を達成する見通し」であると明かした。Rewari氏が「比較的新しく」、かつ以前は「かなり断片的だった」と評するこの事業の成長軌道は、ServiceNowを依然としてITサービス管理(ITSM)プラットフォームと見なしている投資家にとって、注視すべき対象となっている。
Rewari氏は、CEOのBill McDermott氏と社長のAmit Zaveri氏から「次の数十億ドル規模の事業を立ち上げる」ために直接スカウトされた。その動機は二つの側面から同時に生じた。一つは顧客からの「データを真剣に扱うべきだ」という要望、もう一つは、AIの野望を実現するには構造的にデータの課題を先に解決しなければならないという同社自身の認識である。Rewari氏は「エージェント型AIという天国への道は、データ地獄という試練を通らなければならない」と率直に表現した。
投資家が理解すべき製品ロードマップ「4つのC」
Rewari氏は、機能の細かなスペックを並べるのではなく、データ事業全体を構成する「4つのC」という概念的なアーキテクチャを提示した。それは「Connect(接続)」「Control(制御)」「Context(文脈)」「Converge(統合)」である。最初の2つは「Workflow Data Fabric」が担う。外部システム間のデータ接続と継続的なクレンジングだ。3つ目の「Context」は、最近発表された新しい分析製品ラインを中心に、現在集中的に投資が行われている領域である。4つ目の「Converge」は、同社のハイブリッド型トランザクション・分析データベース「RaptorDB」を指す。
このフレームワークが重要なのは、ServiceNowがなぜ「データ製品」を前面に押し出さずとも販売できるのかを説明しているからだ。「我々は、中期的に見てもデータ・分析チームに直接売り込むことなく、データと分析のジャガーノート(巨大勢力)になろうとしている」とRewari氏は語る。販売戦略は完全に「成果重視」であり、既存のServiceNowプラットフォームのユーザーに対し、ワークフローの処理速度を10倍に高める、あるいはよりリッチでクリーンなデータでAIエージェントを強化するといった価値を提供する。基盤となるデータ製品は、導入されるまで買い手にはほとんど意識されない形となっている。
RaptorDBの統合アーキテクチャが持つ構造的優位性
RaptorDBへの投資判断は、市場でいまだ過小評価されているエンタープライズ・データベース・アーキテクチャの転換点に依存している。歴史的に、ERPやCRMのようなトランザクション・システムが業務を処理し、分析クエリはデータを物理的に移動させた後のデータウェアハウスで個別に実行されてきた。このレイテンシ(遅延)は、人間が月曜の午後にダッシュボードを確認する程度であれば許容できた。しかし、何百万ものAIエージェントが継続的に意思決定を行うためにリアルタイムのデータを必要とする現在、それは許容できない。
RaptorDBは、業務処理と分析処理の両方を同一データベース上で同時に実行可能にし、データの移動に伴うレイテンシを排除する。Rewari氏は競合環境について、「我々の規模でこれを実現している他社がどこにあるか、思い浮かぶだろうか」と自信を見せた。ServiceNowはRaptorDBをTableauやPower BIといったサードパーティ製ツールからの直接クエリにも開放しており、SnowflakeやBigQueryへデータをパイプラインで転送し続ける必要性を排除した。同社はこれを「Live Connect」と呼ぶ。また、コストに応じてデータを階層化できる「Live Archive」も備えており、外部バックアップのパイプラインも不要になる。Rewari氏によれば、これらの機能は削減できるパイプラインコストによって「自己資金で賄われる」形だ。
「ゼロコピー」と「知識の重力」による業界への挑戦
カンファレンスで示された最も戦略的に重要なスタンスは、クラウドデータウェアハウス時代を支配した「データ重力(Data Gravity)」の概念をServiceNowが明示的に否定したことだろう。SnowflakeやDatabricksなどがエンタープライズデータの「目的地」となることを競う中で、ServiceNowはRewari氏の言う「知識の重力(Knowledge Gravity)」に賭けている。これは、データが物理的にどこにあろうと、そこから洞察を導き出し、行動を促す能力のことだ。
Workflow Data Fabricの「ゼロコピー」アーキテクチャを通じて、ServiceNowはSAP、Snowflake、Databricks、Google BigQuery、Oracleなど、データがどこにあろうと移行させることなく、その場でクエリをフェデレーション(統合)する。「我々はRaptor内で論理的にデータを表現する。クエリが投げられた瞬間に、それを基盤となるデータウェアハウスやデータレイクにプッシュダウンし、フェデレーションを行う。データ処理の消費はそれらのプラットフォームで継続されるため、彼ら(パートナー)も満足する」とRewari氏は説明する。これにより、ServiceNowはデータインフラの競合ではなく、その上のオーケストレーションおよび洞察レイヤーとしての地位を確立しており、SnowflakeやDatabricksとのパートナーシップも見た目以上に強固なものとなっている。
スタック内で最も過小評価されている「Context Engine」
Rewari氏が最も時間を割き、かつ投資家にとって馴染みが薄いと思われるのが「Context Engine」だ。これは同社の既存のCMDB(構成管理データベース)ナレッジグラフの上に構築されている。20年以上にわたりITコンポーネントとビジネスサービスをマッピングしてきたこのグラフに、Veza買収によるID・ユーザーデータ、Armis買収による資産データ、Pyramid買収によるセマンティック層のビジネス指標、そしてdata.world買収によるデータカタログのメタデータが統合された。Rewari氏は、これらの統合が2026年5月の「Knowledge」カンファレンスで完了したことを認めた。
その結果生まれたのが、Rewari氏が「グラフのグラフ」と呼ぶものだ。極めて重要なのは、そこに「意思決定グラフ(Decision Graph)」が含まれている点である。これは、過去20年以上、100億件以上のワークフローから蓄積された「なぜ過去の決定がなされたか」「どのような例外が発生したか」「どのような結果に至ったか」という構造化された記録である。「100億件以上のワークフローと数兆件のトランザクションを支えてきた経験がなければ、これを手に入れることは不可能だ」と彼は述べ、新規参入者には模倣不可能な「堀」であると強調した。
AIにとっての実際的な意義は直接的だ。AIエージェントのハルシネーション(幻覚)やバイアスを低減させるには、エージェントに提供する「文脈(コンテキスト)」の豊かさが不可欠である。Context Engineはまさにその問題に対するServiceNowの回答であり、エージェント型AIの導入を検討する顧客にとって必須の議論になりつつあるとRewari氏は語った。
「1000億ドル市場」で進行する分析の破壊的イノベーション
カンファレンスの約2〜3ヶ月前に完了したPyramidの買収は、セマンティック層と現代的なBI機能をスタックにもたらした。Rewari氏は、分析がコモディティ化したという見方を強く否定する。その根拠は、同時進行している3つの構造的変化にある。第一に、AIエージェントも人間と同様のガバナンスの効いた信頼できるビジネス指標を必要とすること。第二に、エージェントが洞察と行動の両方を担う世界では、両者の分離は維持できないこと。第三に、ダッシュボードはAIが結果を解釈し自動的にワークフローを起動する対話型インターフェースに取って代わられつつあることだ。
「他社にはそれができない」とRewari氏は、単一プラットフォーム内でリスクを検知し、是正まで行う能力について語った。彼は現在を「1,000億ドル規模のTAM(獲得可能な最大市場規模)における深刻な破壊」と位置づけ、洞察と行動を一つの場所に収束させるServiceNowの優位性を強調した。彼は自身のOracle時代の経験を引き合いに出し、PeopleSoft、Siebel、JD Edwardsの上に構築されたBIアプリケーション事業が、インストールベースを超えて15億ドル以上の収益を上げた歴史を挙げ、ServiceNowがまさにそのプレイブックを実行していると述べた。
成熟途上の市場参入戦略と今後の決断
市場参入戦略(Go-to-Market)について、Rewari氏は現状を率直に語った。現在はコアのアカウントエグゼクティブが初期対応を行い、必要に応じてデータ・分析のスペシャリストを投入している。しかしRewari氏は、スペシャリストモデルとは別に、完全に専任のデータ・分析営業部隊を立ち上げるか否かの議論が、2026年後半に向けて活発に行われていることを明かした。売上高150億ドルを超えた企業において「ServiceNow史上最も急速に成長している事業の一つ」であるだけに、営業インフラの構築は避けて通れない課題だ。
顧客の採用順序については、Workflow Data Fabricが先行する傾向にあるという。これはServiceNowがFortune 500の95%に浸透しており、多くの顧客がすでに統合機能を活用しているためだ。そこからのアップセルとして、ゼロコピー・フェデレーションを有効にするティアアップグレードが続く。RaptorDBの採用は大規模ワークロードを持つ顧客が先行しているが、今後はLive ConnectやLive Performの機能強化により拡大が見込まれる。Pyramidを通じた分析機能は最も新しく、浸透度はまだ低い。
究極の「堀」:20年にわたるアーキテクチャの純粋性
データ事業における真の持続可能性について問われたRewari氏は、統合データベース、ゼロコピー・フェデレーション、20年蓄積されたCMDBなどを挙げつつ、それら以上に重要なことがあると語った。「これらすべてが単一プラットフォームにあること。これが最も重要だ。単一のデータモデル、単一のセキュリティモデル、そして誰にとっても統一されたユーザーエクスペリエンス。他社には存在しない」。彼はこれを、創業者Fred Luddy氏の当初からのアーキテクチャの規律に帰結させ、アルキメデスの言葉を引用した。「私に支点を与えよ。そうすれば地球をも動かしてみせよう」
投資家にとっての実際的な意味は、総所有コスト(TCO)の低減、精度の向上、IT部門と現場部門で共通のスキルセットを活用できること、そして製品を継ぎ接ぎする必要のない統一されたセキュリティモデルにある。ITSMやHRなど、ServiceNowの複数製品をすでに利用している顧客こそがこれを最も強く実感しており、アップセルのターゲットとして最適であると同時に、同社の戦略の強力な証明者でもある。ServiceNowの「Knowledge」カンファレンスで感じられる熱気こそが、その何よりの証左だという。