Bloomberg Originals:インドネシアの「揚げ物株」と財政圧迫、東南アジア市場に広がるリスクの予兆
2026年6月12日付Bloombergレポート:プラボウォ政権下で悪化するインドネシア市場の分析
東南アジアの新興国市場において、インドネシアが警鐘を鳴らす存在となった背景には、「揚げ物株(deep-fried stocks)」という耳慣れない言葉がある。これは現地で使われる比喩表現で、一部の富裕層が株式を過度に保有し、わずかな売買で株価が乱高下する銘柄を指す。こうした株は、市場が健全であるかのような幻想を抱かせる一方で、その実態は脆弱だ。この市場構造の欠陥に加え、プラボウォ・スビアント大統領が推し進める国家主導の経済政策が重なり、2026年のルピアは対ドルで史上最安値を更新。MSCIによる新興国市場からフロンティア市場への格下げリスクも浮上している。
その影響はジャカルタにとどまらない。Bloombergが指摘するように、「インドネシアの資産はアジアにおけるリスク許容度のバロメーターと見なされる」ことが多く、同国のファンダメンタルズ悪化は、東南アジアの成長著しい他国にとっても先行指標となる可能性がある。インドネシア市場は過去1年間で約19%下落し、世界でも最悪のパフォーマンスを記録する市場の一つとなった。東南アジア最大の経済圏が投資家の信頼を回復できるのか、疑問の声が広がっている。
政府系ファンド「Danantara」のガバナンスへの懸念
プラボウォ大統領の看板政策である政府系ファンド「Danantara」は、シンガポールや中東諸国のモデルを模範としているが、投資家の期待を集めるどころか、かえって不安の的となっている。非効率とされる数百の国有企業を管理し、外国資本を呼び込む目的で設立されたはずの同ファンドだが、ガバナンス上の根本的な疑問が浮上している。Bloombergの分析によれば、同ファンドは「大統領の社会政策に資金を供給するための貯金箱のように見られている」といい、市場の効率化を目指すものなのか、それとも政治的便宜のためのものなのか、外国人投資家の間で混乱が生じている。
さらに、パーム油、石炭、ニッケル製品を管理する新たな国営企業を通じて、コモディティ輸出に対する国家統制を強める大統領の動きが、不透明感を助長している。政府側は、利益の海外流出や租税回避を目的とした過少申告を取り締まるための措置だと説明するが、Danantaraの傘下に経済権力が集中することに対し、政府の保証とは裏腹に、透明性や市場親和性を懸念する声は根強い。
「無料給食プログラム」で揺らぐ財政規律
1998年のアジア通貨危機以降、インドネシアが守り抜いてきた「財政赤字をGDP比3%以内に抑える」という財政責任への信頼が、過去20年で最大の試練に直面している。プラボウォ氏が掲げる、児童や妊婦を対象とした数十億ドル規模の無料給食プログラムにより、財政赤字は2000年代初頭以降、パンデミック期を除いて最大水準に達した。同国は「法的上限である3%を突破しかねない状況」にあり、この制限こそがスハルト時代終焉以降、国際的な投資家を惹きつけてきたインドネシアの魅力の礎であった。
この財政的重圧は、ポピュリズム的な政治的要請と、ベトナム、マレーシア、タイを凌ぐ外国直接投資を呼び込んできた市場規律との間の深い緊張関係を露呈させている。給食プログラムは有権者の支持を得ているものの、「経済全体へのプラス効果はまだ現れていない」。しかも、この財政圧迫は、インドネシアがアジアで最も高い水準の債券利回りを支払わなければならないタイミングで生じている。高い利回りは、投資家がインドネシアのソブリンリスクに対してより高いプレミアムを要求している証拠であり、1997〜98年の危機でルピアが崩壊した後に長年かけて築き上げた信用を損なう憂慮すべき事態だ。
「揚げ物株」が暴く市場構造の脆弱性
「揚げ物株」の現象は、インドネシア市場の最大の問題である、極端に低い浮動株比率とそれに伴う価格操作の容易さを浮き彫りにしている。近年までインドネシアは東南アジアで最低の最低浮動株比率を維持しており、上場企業であっても市場で取引可能な株式の割合が極めて少ないケースが多かった。この集中と、富裕層が支配する不透明な所有構造が組み合わさることで、比較的少額の取引で株価が劇的に動く事態を招いている。
このボラティリティの高さを受け、世界的な株価指数算出会社であるMSCIは、新興国指数におけるインドネシアの比率を引き下げる可能性を示唆した。さらに深刻なことに、MSCIは「インドネシア市場をフロンティア市場に格下げする可能性」に言及。Bloombergは、これが「1998年の金融危機以来見られなかったような売り」を誘発したと報じている。最初のショックから数カ月が経過した現在も、インドネシア株は世界で最もパフォーマンスの悪い市場の一つにとどまっており、格下げの脅威は依然として市場に重くのしかかっている。
2026年3月、金融当局は最低浮動株比率を2倍に引き上げることを承認したが、実行面での疑問は残る。Bloombergが指摘するように、重要なのは「誰がどの株を所有しているのかという透明性を高めるのにどれほどの時間がかかるのか、そして市場操作の疑いがある大手プレーヤーを当局が追及するのか」という点だ。既得権益に対する断固とした取り締まりがなければ、規制の変更は実質的な改革ではなく、表面的なものに終わるリスクがある。
国内課題を増幅させる外部圧力
世界的な関税紛争と原油価格の上昇が、インドネシアの自業自得とも言える傷口をさらに広げている。原油価格が上昇する中、国内価格を地域で最も安く抑えるための燃料補助金は、維持コストが膨らみ続けている。「もし大統領が燃料価格を低く抑えたいのであれば、原油価格が上昇し続ける限り、そのコストを負担しなければならない」。これは、無料給食プログラムですでに逼迫し、財政赤字の3%上限に近づいている予算にさらなる圧力をかけている。
新興国通貨の売りが広がる中でルピアへの圧力も強まっており、Bloombergはルピアを「対ドルでアジア最悪のパフォーマンス通貨の一つ」と評する。この通貨の弱さは「状況が芳しくないことを投資家に強く印象付ける」ものであり、資本流出が通貨を弱め、それがさらなる流出を招くという自己強化的な悪循環を招く恐れがある。このリスクはインドネシアの国境を越え、「ルピアや債券、株式の売りが続けば、アジアの真の成長ストーリーに対する投資家の関心が薄れていることを示す」ことになる。
内向き志向というリスク
最も懸念される長期的なシナリオは、投資家の懐疑的な見方に対する反発として、インドネシアが内向きになることだ。「インドネシアに対する信頼が世界的に失われれば、同国はより内向きになるだろう」とBloombergは警告し、「インドネシア政府やビジネス界の誰も、より閉鎖的な国になることを望んでいないはずだ」と付け加える。しかし、コモディティに対する国家統制を強め、政治的に管理されるDanantaraの下に資産を集約させるプラボウォ政権の政策方針は、公言とは裏腹に、まさにその方向へ向かっていることを示唆している。
インドネシアの直近の過去と比較すると、その対照はあまりに鮮明だ。わずか3〜4年前、「インドネシアは投資家の寵児だった。ニューヨークからロンドンまでの距離に匹敵する群島に2億8,000万人以上を抱える国として、大きな期待を集めていた」。世界最大のパーム油輸出国であり、ニッケルや一般炭の主要生産国でもあり、ユニクロからザラまで、あるいはバービー人形やホットウィールといった製品の製造拠点として、インドネシアは世界舞台で持続的な成長を遂げるための「すべての材料」を備えていた。
その潜在能力は理論上、今も損なわれていない。インドネシアのGDPは1.5兆ドルに達し、シンガポールとタイを合わせた規模を上回る。また、消費ブランドにとって魅力的な若い人口構成も維持している。しかし、「揚げ物株」による操作、Danantaraのガバナンス懸念、財政悪化、そして通貨の弱さが重なり、インドネシアは東南アジアの成長ストーリーから「反面教師」へと変貌してしまった。規制当局が透明性を回復できるか、プラボウォ氏がポピュリズム政策と財政規律のバランスを取れるか、そして政府が「内向きの罠」を回避できるか。これらが、インドネシアの市場崩壊が一時的な調整に過ぎないのか、それとも前任のジョコ・ウィドド政権下で確立された市場親和的な軌道からの根本的な決別となるのかを決定づけるだろう。