TDK、2027年3月期業績予想を上方修正――AIデータセンター向け好調、TMRセンサーに1,000億円投資、UPS用電池で1,000億円規模の事業視野に
10月30日開催 2027年3月期第2四半期決算説明会
TDKが発表した上期決算は過去最高を更新し、通期業績予想の上方修正につながった。しかし投資家にとってより重要な示唆は、追加投資の向かう先と、AI関連需要が4月時点の会社計画をどれほどのスピードで上回って拡大しているかにある。上期の売上高は前年同期比31.9%増の1兆5,606億円、営業利益は41.0%増の2,082億円となった。純利益は58.4%増の1,764億円を記録した。為替変動が売上高に約1,344億円、営業利益に約19.9億円寄与したため、実態としての成長率は見出しの数値ほどではないものの、依然として力強い。経営陣は通期業績予想を売上高3兆5,500億円、営業利益3,650億円、純利益2,800億円に上方修正した。通期の想定為替レートは従来の1ドル=150円から157円に見直している。
AIエコシステムの成長が計画を大きく超過
齋藤昇社長は、同社が「AIエコシステム」と呼ぶ分野に関連する売上高について、上期は前年同期比で約1.7倍に拡大したと述べた。これは通期の当初想定であった約1.2倍を上回るペースである。4月時点では今年度におおむね倍増を見込んでいたAIデータセンター向けの受動部品売上高は、現在約3倍のペースで推移しており、中期的におおむね10倍を目指す計画の範囲内にあるという。齋藤社長によれば、通期のAIエコシステム成長率は25%〜30%に上方修正される一方、2031年3月期の目標については現時点では維持しつつ、来期の軌道を見極めながら「トップラインをできる限り拡大させる」方針を示した。
受動部品(Passive Components)の営業利益は、売上高が同25.3%増の3,580億円となる中、同2.7倍の396億円に拡大した。成田哲治CFO(最高財務責任者)は、同セグメントの営業利益率について、昨年度の7%から今期は二桁台に乗せるとの見通しを示した。価格環境にも変化が生じている。齋藤社長によると、一部のAIデータセンター向け顧客では供給が逼迫しており、TDKは従来の入札方式から交渉価格方式への移行を進めており、来期に向けた交渉は年末に開始される予定である。ただし、下期における大幅な価格変動は想定していないという。
生産能力増強:TMRセンサー、薄膜インダクタ、アルミ電解コンデンサ
TDKは複数の大型設備投資を決定した。国内最大規模の投資として、新潟県の「信濃川テクノプラート」の拡張に約1,000億円を投資する。長野県の浅間工場と合わせることで、TMRセンサーの生産能力を倍増させ、2拠点生産体制を構築する。対象範囲は前工程のウェハ加工から後工程のウェハレベルパッケージングまでを網羅する。同事業を担当する役員は、今期から大口のセンサー出荷が始まっており、3〜4年後にはさらに出荷規模が拡大する見通しであり、「大型の引き合いがきている」ことが今回の投資の背景にあると説明した。応用分野としては、ヒューマノイドロボットにおける関節角度や触覚センシング、スマートグラス、データセンター向けの超高精度電流センサーなどを挙げている。経営陣は、現在のセンサーの周波数要件が約5メガヘルツから10メガヘルツ、さらに20メガヘルツ超へと移行しつつある中、TMR技術がこれに対応可能であるとの認識を示した。
薄膜インダクタについては、供給能力をおおむね倍増させるため約40億円を投資する。齋藤社長は、この投資について、GPUやCPUへの電力供給方式が「チップの脇に配置する電圧レギュレータ方式」から「基板の直下に配置する垂直給電方式」へとシフトしていることに結びつけて説明した。同氏によれば、レギュレータを脇に配置すると「給電経路が長くなり、発熱や損失につながる」一方、垂直給電は配線を短縮して抵抗を抑制し、効率を約70%改善するという。この方式には基板内に埋め込み可能な超薄型インダクタが求められており、HDD用ヘッドで培ったTDKのメッキ技術が差別化要因になると主張している。積層セラミックコンデンサ(MLCC)の能力は来期に向けて約20%引き上げ、アルミ電解コンデンサの能力は毎年倍増させ、2029年3月までに7倍に引き上げる計画である。通期の設備投資計画はHDD用ヘッドおよびサスペンションの能力増強を中心に300億円増額して4,000億円とし、減価償却費の予想も100億円増額して2,500億円とした。
UPSおよびBBU:1,000億円規模のポテンシャルを持つ事業と、BBUの出荷遅延
アナリストからの質問に対し、指田文雄氏は、TDKが来期にUPS(無停電電源装置)用電池の出荷能力を倍増させる計画であり、キャビネットベースでの製品供給を通じて参入市場における30%〜40%のシェアを目標としていると述べた。あるアナリストがこれが1,000億円規模の事業を意味するかと質問したところ、指田氏はそれが「妥当なイメージである」と回答した。経営陣は公式な業績予想は開示していない。
電池バックアップユニット(BBU)の事業はこれより進捗が遅れており、スケジュールが後ずれしている。TDKは主要なハイパースケーラーからの承認を獲得しているものの、第3四半期を予定していた出荷開始が第4四半期にずれ込むこととなり、今期のBBUからの売上高は見込んでいない。指田氏は、800ボルトのDCアーキテクチャに関連する量産開始は2027年を予定していると述べ、出荷数量の公表は控えた。
HDDヘッドおよびサスペンションが利益上方修正を牽引
磁気応用製品(Magnetic Application Products)は、利益成長の最大の牽引役となっている。上期の売上高は約1.5倍の1,769億円、営業利益は2.8倍の331億円に増加した。第3四半期単体で見ると、ヘッドの出荷数量は前四半期比17%増、サスペンションは9%増となり、営業利益は第1四半期から約2.5倍に増加した。成田氏は、この改善の要因として、数量の増加、ウェハ生産性の向上、稼働率の上昇、そして現在の需給バランスに応じた「適切な価格設定」を挙げた。上期のセグメント利益率は18%であり、経営陣は下期にはさらに向上すると見込んでいる。通期のセグメント営業利益は昨年度の約2.5倍を見込んでいる。ニアラインHDDの生産台数予想は7,900万台に上方修正された。
ヘッドについては、ウェハの設備投資が完了し生産が軌道に乗っているため、生産能力が制約要因になることはない見通しである。サスペンションの能力は今期約20%向上しており、追加で投じる300億円の設備投資は来期から寄与する。齋藤社長は、これまで改善途上にある事業として分類されていたヘッド事業を、利益基盤(プロフィットベース)カテゴリに移行する方針を示唆した。ヘッド事業に関するメディア報道について問われ、同社からの発信ではないとしてコメントを控えた。また齋藤社長は、AIエコシステムの成長を強化・加速させる必要性を挙げ、受動部品事業におけるパートナーシップについて太陽誘電と協議を行っていることを認め、詳細については適切な時期に開示すると述べた。
スマホの低迷と下期の利益減速
その一方で、ICT市場がマイナス要因となっている。メモリーの供給逼迫と価格上昇がデバイスの生産を冷え込ませている。TDKは、2026年のスマートフォン生産台数について、4月時点で想定していた約10%減(11億1,200万台)からさらに5ポイント下振れし、11億台を下回ると予想している。小型電池の出荷台数は、第3四半期に前四半期比で約10%減少する見通しである。指田氏は、当初計画では通期の小型電池の数量を約7%減と想定していたが、それ以降見通しが悪化していると述べた。価格改定や新製品投入によるミックス改善に支えられ、通期のセグメント売上高は約2%増になると予想されている。小型電池の厳しい事業環境は来期以降も継続する可能性が高く、TDKはコスト削減とシェア拡大を通じて利益率を死守する方針であり、産業機器やデータセンター向けの的中容量電池が成長を牽引すると述べた。
この業績予想は、下期の利益が急減することを示唆している。上期の営業利益2,081億円に対し、下期の予想は1,569億円であり、約500億円の減益となる。成田氏は、最大の要因としてエネルギー分野を挙げ、第4四半期における電池の数量減少や中国の春節に伴う稼働率低下を指摘した。センサーもスマートフォンの生産台数減少に伴い減益となる。受動部品の利益はおおむね横ばいとなるものの、50億円の構造改革費用を吸収するほか、第4四半期には固定資産税として約50億円が加算される。業績予想が保守的ではないかとの質問に対し、成田氏は、数量が可視化されている部分についてはリスクを織り込んでいるものの、第4四半期は完全に先が見通せるわけではなく、電池の数量については保守的に扱っていると説明した。コバルトに関しては、指田氏は、TDKが過去に購入した在庫を保有していることや、顧客との価格交渉が市場に遅れて反映されるため、スポット価格の下落がまだ反映されていないと述べた。
キャッシュフロー、ポートフォリオ管理、ガバナンス
キャッシュ創出力は弱点となっている。上期の営業キャッシュフローは、一時的な源泉所得税の支払いと運転資本の増加により、前年同期比で1,108億円減少した。Linergy買収などを含めたフリーキャッシュフローは23億円のマイナスとなり、戦略的なM&Aを理由に通期のフリーキャッシュフロー予想をマイナス50億円へと大幅に下方修正した。経営陣は、これにより中期的な資本配分計画が実質的に変更されることはないと述べた。構造改革に伴う一時費用は60億円から110億円へと引き上げられたが、同社は営業利益率およびROIC(投下資本利益率)の中期目標最終年度の達成を引き続き見込んでいる。今期の予想ROICは8%から9.7%へ改善した。中間配当および期末配当は、それぞれ1株当たり20円から25円に引き上げられた。
ポートフォリオ管理については、議論の対象となっている5つの事業のうち、フラッシュメモリ関連の2事業が改善カテゴリに移行し、同カテゴリの事業数は13から15に増加した。残る3事業についての決定は、今期末までに下される予定である。またTDKは、監督と執行の分離を目的として、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行することを発表した。中期目標としては、ROE 15%以上、ROIC 12%以上、営業利益率 15%以上を維持する。